第65回

新人コミック大賞 発表

青年部門


大賞

『泣き笑い仏』小林馨(22歳・埼玉県)

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■いわしげ孝先生
達者な絵でキャラクターの表情が良い。ヒロインが妊娠してからの様変わりもドラマチック。ただ、主人公と僧侶の会話が予定調和で、出来過ぎの感も。
■黒丸先生
絵がうまい。もう少し線を整理した方がいいが、全体的に力がある人だと思う。人物の性格描写にはリアリティがあった。いるよね、こういう人(笑)ヒロインが「女になる」というのもすごく良くわかる。人間の哀しいサガがよく描けていたが、残念なのはそれがすべて過程の話だという点。現在の話は過去の話に比べると、完全に「2人の世界」になっていて、彼女がなぜ主人公を許したのか理解できなかった。オチも個人的には蛇足。
■高橋しん先生
絵を描くという情熱にあふれた作品です。決めの表情の一つ一つを逃げないで描いているのが伝わってきます。たとえば独白を少し減らしても、絵を描く力でもっと作品を生かせられるのではないかと思います。あとはヒロインの情熱を、もっと主人公の情熱を受け止められるくらいに高める事で、作品はさらに生きてくると思います。情熱はストーリーや顔の表情だけでなく、主人公と一緒に生きた時間、一人を生きる時間、そして読者のさんと一緒に生きた生活の中にこそ存在し、読む人に共感される事を忘れないで下さい。
■乃木坂太郎先生
絵的な評価は今回NO.1です。表情の豊かさ、印象的な絵作り、すごくマンガ勘がある人ですね。プロに近い所にいると思います。内容は若干一人よがりに傾いている印象です。主人公が彼女について何も知らないように、読者にも彼女の人間像がつかめない。なのにドラマの解決は、一方的に彼女に委ねられています。主人公は彼女に、作者は読者に甘えすぎではないでしょうか。主人公の醜さは、この物語では昇華されてません。――とはいえ、22歳でこれだけ描ければ立派です!! 次回作に期待します!!
■山本おさむ先生
画学生の恋愛・芸術家の悩み・彼女の流産等、三作・四作に分けて描くべき題材を詰め込んだために、すべてが未消化になってしまった。寺に来て住職に過去を語るというスタイルもやや古いのではないだろうか。彼女との出会い、デートをするようになるまで…だけで一本の短編を作るような心構えを。

入選

『イン・ザ・ブース』加藤達哉(20歳・滋賀県)

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■いわしげ孝先生
ストーリーと構成力に才能を感じる。絵も独特な味わいがあって良い。暗くシリアスな話だけど、ラストページで救われました。
■黒丸先生
いい話ですね。完成度の高いストーリーだと思った。トイレの中での便所飯、顔の見えない相手との連帯感など着眼点がいい。細かいツッコミはあるにせよ、総体的に面白かった。ラストはもうひと工夫だが。とても残念なのは、絵がとにかく雑だということ。ここぞというシーンでの表情は素敵なので、もったいない。
■高橋しん先生
主人公もヒロインもみんなかわいらしく描けている作品です。絵を描く楽しさも伝わってきます。描きたい事も伝えたい事も、いっぱい詰まっている印象です。短編マンガとしては、主人公の過去の記憶と現在の自分との結びつきをもっと強めて、「読む人に、ここだけは伝えたい事」に集中していくのもありかと思います。主人公とヒロインふたりの存在が、もっと作品の中で生き生きしてくると思います。また、そのために不要な要素もそぎ落とされて、輝きが増すでしょう。最初から無いのと、そぎ落とした結果でなくなるのとでは、作品の厚みが全然違います。
■乃木坂太郎先生
構成、絵、色々と難点の多い作品です。殻にこもった主人公が外に出るという、投稿作の定番といえる内容です。しかし外に出てからのドラマがある点で、この作品を評価します。能動的に動いて「隣人」を探す主人公に、外向きのエネルギーを感じました。今回の選考の中で、唯一主人公が「社会」に関わろうとしています。ラスト、初恋の子本人と出会ってほしかった。男に変わってしまった彼女を見て、なおかつ真実を見つめられるかという葛藤を見たかったですね。正直、性同一性障がいという設定は付け足し感ありありでしたが… 年齢込みの評価です。外に向いた作家性に好感を持ちましたが、ぶっちゃけ絵など(背景をもっとしっかり)課題が多そうなのもこの方です。頑張ってください! 女の子は意外とかわいいですね!!
■山本おさむ先生
「便所飯」というアイデアはいいのだが、これも要素を詰め込みすぎで後半、空中分解してしまった。「回想」「便所飯」「宇宙服のイメージ」の三題で32ページぐらいにまとめれば良かったと思う。新人賞とはいえ、これではセリフ多すぎ、絵は雑すぎ。しかしストーリー作りに関しては、いいセンスを持っているように思う。

佳作

『ノルウェイの家具』坂入勝之(28歳・東京都)

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■いわしげ孝先生
センシティブな作品、木工スクール(?)の様子もよく描けていて、「椅子の精」のじいさんも魅力的だけど、若干ひとりよがりな気がする。
■黒丸先生
独特の雰囲気と個性的な絵柄はいい。もっと丁寧に、特に眼をきちんと描けば印象に残る絵になると思う。ストーリーは悪くないが、ラストは予定調和に見える。構成やキャラクターの描写に関しても練り込みが足りない。もう少し必要不要をより分けて、「思いついたネタ」以上のものを作品にしてみてほしい。
■高橋しん先生
キャラクターのかわいさや生活感が、読みたい気持ちを後押しする作品です。個人的に最初の主人公の第一印象と、わざと雑に作ったような椅子のビジュアルから家具作りに対する情熱を読み違えてしまったのですが、「お前は悪くない」の一言でぐっときました。細かいことを言うと、不器用だけど一生懸命作った、またはイメージがあるのだけれど、技術がついていってないと感じさせる椅子の造形に気を配ればもっとストーリーが生きてくると思うのです。大事な主人公のパートナーのビジュアルですから。もう一つ残念なのは、主人公とパートナーへの愛情に比べて、その他のキャラクターが生きていない印象を受ける事です。読んでる方としては、自分の大事な物の、その周囲の人間には興味がない感じが、主人公達のハートフルさを逆に冷めさせているように感じました。二人の世界は、周りの生きた人間によって際立つのだと思います。
■乃木坂太郎先生
かわいい絵柄でほんわかした雰囲気がいいですね。ここで泣かせるぞ!!という一点が絞り込めているのが非常にいいです。時代、国、主人公のおかれている立場(学生?)がわかりづらいのですが、ゆるい作りだからこそ泣かせるためだけのファンタジー設定があんまりあざとく感じないのかな、とも思うので今作に限っては、あまりマイナスにとりませんでした。―――しかし10年後ってのは飛びすぎかな。一歩を踏み出す主人公を、1ページでもいいから見たかったですね。ただ、絵、世界観、ドラマ。次回作はもっと作り込まないと商業的には厳しいと思います。
■山本おさむ先生
まったく見知らぬ読者が、あなたの作品の前にいるのだという事をもっと意識してください。「研修中」というセリフだけで、読者に設定を理解してもらおうというのは無理。その後も椅子の精の登場、いきなり「10年後」になるなど、読者は置いてけぼりをくらう。読者に面白く見せるという工夫を、全場面で考えましょう。

佳作

『いづの目』小桜銀子(34歳・東京都)

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■いわしげ孝先生
重いテーマだけど、良いエンターテインメントになってます。ただし、化け物が何の象徴なのかわかりづらく、化け物が正体を現す山場の所をじっくり描けば、もっと盛り上がったと思う。
■黒丸先生
一番「キャラ」を創ろうとしていた作品だと思う。線は硬いが、人間の絵や表情は魅力的で好感が持てた。それだけにストーリーが惜しい。読切作品においては「読者にオチをさとられない」こと以上に、大切にすべき物語のポイントがあると思う。個々のキャラは素敵なので、彼らをより引き立てるために、ストーリーの切り口を変えて描くことも、時には必要なんじゃないでしょうか。
■高橋しん先生
絵が丁寧で、読者さんに見せたいという気持ちが伝わる作品です。長編漫画の第一話のような構成なので、構成の完成度云々は置いといて、主人公や周りの人が作者の意のままに動かされている印象があります。キャラクターが自ら意思を持って動き始めるように、仕草や表情がもっと生き生きしてくるように、時には作者を困らせるくらいに、作者の頭の中で頑張ってキャラクターを育ててください。作品を創る一番大事な工程はそこだと思います。作者は作品にとっての神ではなく、キャラクターとともに作品を生かしていくパートナーであることを忘れないでください。
■乃木坂太郎先生
洗練された線、手慣れたデジタル仕上げ、描き込まれてますね。ただ、既成作家の影響が強すぎて、この人ならではの印象がありません。作品の時代背景と絵柄のミスマッチもあえて狙っているとしても、効果があがってません。絵だけではなく、内容も既視感が強いです。妖刀を振り回す少女というモチーフは、手アカがつきすぎているので何らかの独創が欲しいです。「男に頼りたいと思ったから」正体が見破れなかったというのも、初見から見破れない理由になっていません。全体的にプロットは厳しい出来です。とはいえ青年誌の賞で、けれん味のあるキャラを描こうとするのは好印象です。モノローグで始まる漫画ばかりの中で、アクションでスタートする今作は非常に商業誌を意識した作りで良いと思います。
■山本おさむ先生
ありがちな設定とストーリー。それを責める気はないが、このパターンの中で主人公の顔、髪型、服装、性格、言葉遣い、神刀のデザイン等、作者の独自性を出すべく工夫しなければならない事がたくさんある。怪物のデザイン、アクションシーンのバリエーション、ヤクザのお姐さんなども同様。小さく小ぎれいにまとめようとせず、もっとエネルギッシュに!!「ワンピース」を見よ。

佳作

『アフター ザ ドリーム』藤原鳴呼子(30歳・京都府)

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■いわしげ孝先生
主人公の性格の弱さは何なんだと思うけど、この作品の命は不思議なヒロインの魅力につきます。
■黒丸先生
導入部や全体の構成がテンポ良く作られていて読みやすい。絵は雑だが構図は工夫されていた。死んだ彼女との思い出に苛まれる主人公の姿や、「靴」の使い方は上手で面白い。が、それだけに後半は惜しい。主人公の追いつめられる姿に説得力があったので、逆に解決法は安易に思えた。夢と女の子の言葉以外に、もうひと工夫あればと思うところ。女の子のビジュアルはかわいい。
■高橋しん先生
画面全体に、素直に新人さんらしい魅力が伝わる作品です。絵も好感度があります。これから少しずつ読み手の事を考えて、親切に描いていってください。あとは、たとえストーリーラインに関係ないとしても、ヒロインの人生や生活感を掘り下げて今よりもっと、生きている人間として描いてあげて下さい。作品が今よりもっと生き生きしてくると思います。作中の人物は主人公のためのものでなく、ストーリーのためのものでなく、大袈裟に言えば一人の人間として輝くために生まれてくると思って、私は漫画を描いています。
■乃木坂太郎先生
クセのない絵柄で読みやすかったです。96ページ1コマ目のヒロインの表情なんかわりと好きです。ドラマ的には主人公の悩みが、絞りきれてないと思いました。彼女を亡くした喪失感なのか、それとも自責の念なのか?「死ね!バカ」と言ってしまったことを後悔する主人公の気持ちは、どこで解放されたのでしょうか?そこをしっかり描かないと、単に代わりの彼女が見つかってハッピーという、安易で薄い物語に読まれてしまいます。あと、映画館というモチーフを効果的に使えたらもっと印象が強い作品になったと思います。
■山本おさむ先生
「回想」の中の物語が、作者にきっちりと把握されてない。よって現在進行形の主人公の悩みやストーリーに乗っていけない。「彼女の死」という設定が、短編としては重すぎるのではないだろうか。「靴」や「映画館の前に立っている女」というのは、使えるアイディアだと思うのだが…会話やモノローグだけのシーンが続かないような工夫も必要です。

佳作

『コンビニ』吉田史耕(30歳・東京)

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■いわしげ孝先生
夜中コンビニってのは、確かにこういう話を連想させるけど、作者はこれで何を言いたかったのか疑問。
■黒丸先生
こえ〜(笑)。かなり不条理な話だけど、こういうことって絶対に起きないとも限らないかも。その日常にありそうな不気味な恐怖が良かった。絵の構図や場面転換で未整理な部分が多く、特にキャラのアップで誰なのか分からなくなるシーンがあった。ラストのゴ○ブリは吐き気モノ!(ホメ言葉)
■乃木坂太郎先生
不条理な恐怖を盛り上げるためのレイアウト、ライティング等、画面構成の巧みさが印象に残りました。絵作りのうまい人ですね。反面、状況がエスカレートするだけのプロットが単調です。オチもありきたり。アイディア不足では?顔だけで怖がらせようとしてませんか?一つのシチュエーションを切り取ってとことん作り込むなら、主人公にもっと感情移入させないと厳しいです。店長がトレッキーなのも、作者自身がスタートレック好きなんだな、という楽屋オチに見え、世界観の底を割ってます。 *僕自身がホラー好きなため、少々辛めです。
■高橋しん先生
短編作品としての完成度が高い作品です。絵もキャラクターも生き生きよく描けいます。回想や、時間が解決する的な日にちをまたぐ要素を使わない作品でもある事も、好感度が高いです。ストーリーがエスカレートするだけでなく、作者さんの伝えたい事が最終的にもっともっと伝わってくるアイディアをこれから期待したいです。個人的に彼らが、お店を後で掃除するのが大変じゃないかと途中気になってしまったので。有り得ない話と、有り得る話の境界に気を配る事は、絵という有り得ないものでドラマを表現する漫画には大切な要素です。個人的な事ですが、私もコンビニで過去同じ過ちを犯しましたが、すぐ戻ってお会計を頼んだら逆におばちゃんにほめられました。セーフですね。
■山本おさむ先生
押せ押せでエスカレートさせていく表現力はある。しかし主人公を含めた店員、店長の描き方に、今の若者の誇大な被害者意識を投影させているのだと思うが、これがもはや新しく感じられないのである。後半部分に、もう少し違った人間観、世界観を提示して締めくくるような、ドラマ感覚が欲しい。