第67回

新人コミック大賞 発表

青年部門


入選

『一つ八つ』森拓也(東京都・22歳)

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■黒丸先生
この方はものすごく絵が巧いです。22歳でこの画力はすばらしい。計算されきっていないタッチで描かれたキャラクターはデフォルメもよくてかわいらしく、特に子どもたちの描き方は秀逸です。大人はもう少し頑張ってもよかったかな。このタッチを活かした背景を入れれば、さらに世界観は強固に構築できただろうと思います。クライマックス、お母さんのことを話す主人公の笑顔は本当に素敵でした。表現方法も冒険しており、オリジナリティがあって良かったです。半面、ストーリーに関しては惜しい点もありました。いい話なのですが、2〜3か所、致命的に意味が分からないシーンがあったこと。言いたいことが分からないのではなく、純粋に「何が起きているのか分からない」。キツネのしっぽをもぎとった獅賀君には、結局何が起こったの?? ネーム(言葉)を削り、うまく絞っていくのも重要な作業ですが、読者に歩み寄らなくては伝えたいものも伝わりません。あと、キツネはもっと早く(最低でも5ページまでに)登場させるべきでした。主人公とキツネの関係がキーになる物語なので、読者に早い段階で「これはこの少年と、少年にしか見えない不思議なキツネのお話ですよ」と示さないと、読者はどこをポイントに読んでいいのか分からなくなります。ともあれ、この画力は宝だと思います。この絵が話にとてもマッチしていたので、次は逆に都会的で現代的なお話も見てみたいなんて思いますね。
■高橋しん先生
細かいところはおいといて。漫画になっています。作品になっています。短編の物語になっています。描きたいシーンを、伝えたいシーンを信じて描ける勇気があります。子供の視点と大人の視点のバランスもうまくとれていて、そのことが、作者創作のおとぎ話であるストーリーをうまく読み手に提示できていると感じました。課題は導入部分。このおとぎ話を読者さんに感じてもらうための大切なキャラクターである「狐」がどうやったら読者さんの印象に残るか、大切に思ってもらえるか、今よりもっと懸命に考えて下さい。細かいことですが、狐が袋の中にいるのかランドセルの中にいるのか、きちんと統一することもこうした短編創作童話の場合、とても大事です。とにかく、読者さんにはこのストーリーの肝である「狐」に思い入れもなく、見たこともなく、想像も出来ない、そして、知らなくても別に困らない。そこからのスタートなのです。おとぎ話を、例えば目の前の大事な人に話してきかせるように、読者さんに語りかけて下さい。目の前の人はストーリーや主人公やそして狐に対して「なぜ」「なに」を問いかけてくるかもしれません。ですが、読者さんは「なぜ」「なに」を感じたときは読むのをやめる時かもしれない、そうなる前に頑張って読者さんを最後の1ページまでたどり着かせ、感じてもらう、そこで初めて作品やこの愛らしい主人公たちが生きたことになります。細かいことと思うでしょうが、漫画の基本であるノドの扱いにも読者さんへの配慮が足りないと感じます。デジタル時代ですが、この作品は雑誌に載ることを前提に描くものであれば、読者さんはページを開き、糊で閉じてある近くの奥の奥の方まで雑誌を頑張って開いて読めば読めますが、読者さんにそこまでして懸命にこの作品を読めというのは、描き手として尊大すぎる態度で、優しさを感じることは出来ません。大げさに言えば、ストーリー上では小さな生き物に対して優しくあるように説いているのに、読者さんに対しては優しくないなんて、言行不一致ではないでしょうか。作者の子供である主人公たちのために、どうぞ読者さんに対して、親切に、繊細に、丁寧に、優しく、そして大胆に頑張って下さい。
■乃木坂太郎先生
感情を表現する力はすごくあると思います。その点は、今回の応募作のNo.1です。しかし、説明的なシーンを省略し、表現で押し切る作風なのは意図的なのでしょうが、やはり物語は叙情と叙事のバランスがとれてないとひとりよがりなものになってしまいますよ。少年時代の先生が車イスに乗っていることや(これは本当に絵がわかりづらい)、イジメっ子くんがしっぽを抜いて、何を庇ったのか、全くわかりません。(血を見てフラッシュバックをおこし、倒れるというのも、しっぽを抜いた罰のようにも見えます)そして、彼の願いはなぜかなわなかったのか? キツネは何故生きているのか? しっぽを抜くことに本当は意味がないなら、なぜ少年にしか見えないキツネが存在するのか? ラスト主人公は何にかけだしているのか? もう少しわかり易くかいてもバチはあたらないのでは? 今のままでは新井英樹さんの作風を表面だけ模倣してる人といった印象です。期待してる分、かえって厳しい言い方になってしまいましたが、次回作本当に楽しみにしてます。がんばって!
■山本おさむ先生
自分の思いをただ吐露するのではなく、それを読者に伝える工夫をして下さい。登場人物が、誰に対して、なぜ・どう思っているのかさっぱり読み取れない。主人公しかり、シガ君や先生しかり、キツネの伝説も何を意味するのか……せっかく力の入った絵が入っているのに惜しい気がするのです。もっと読者とのコミュニケーションを。

入選

『マイ・ファミリー・ストーリー』伊駒留美(埼玉県・31歳)

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■黒丸先生
まず、とにかく絵がうまい! 隅から隅まで丁寧で、写実的だがデフォルメのセンスがいいのでしつこくない。背景も含めてとても画力の高い作者だと思いました。ストーリーの面では、素直な物語を直球に、素直に描いていたことに好感を持ちました。贅沢を言えば、素直すぎて少し物足りないかも。卓越したこの画力がなければ、「どこかで読んだ話」という印象を強く持ったと思います。宝くじが当たったことによって引き起こされる家族の狂想曲をメインに描くなら、もう少しオリジナリティのある展開が欲しかった。家族の表情が独特で笑えるので、もっとぶっとんだ展開があっても十分成立したと思います。シカの言い伝えがあまり上手く使われていなかったこと、ツカミとして登場した「いじめてくる友達」が二度と登場しないことなど、ストーリー上もったいない要素もいくつか見られました。完成度の高い読切作品に共通しているのは、全ての情報、どんな小さな要素も全て意味があり存在理由があるという点です。絵同様ストーリーも、もっと高いレベルを目指せる作者だと思います。この絵だからこその、ギャップを活かしたヒネリのある話も読んでみたいと思いました。
■高橋しん先生
新人さんらしく、まっすぐな作品です。登場人物がチャーミング。作者が愛情を持って心の中でキャラクターを育て、生かしているのがわかります。絵に関してもとてもまっすぐ、脱帽する努力の結晶です。正直、ストーリーとのバランスで言えばもったいない程のがんばりです。せっかくの努力なので、読者さんにもっと作品を喜んでもらえるよう、作品を今よりさらに考えてあげて下さい。読者さんの期待に対し「いい意味で」裏切ったり、寄り添ったり、伝えたいことを出来るだけ感じてもらうために懸命に慎重に、読者さんの身になって考え抜いて下さい。あえて細かい突っ込みをします。導入から言うと「鹿神」がストーリーに絡んでこなくてはウソな展開です。死んだおじいちゃんが家族に悲喜こもごもを与えていくストーリーなら化けて出てこなくても少年だけで成立する展開ですし、何より通夜のあとに棺の番もしないで茶の間を囲んでいる家族のために今後を心配して出てきてくれるおじいさんはいないでしょう。旅館を営む家族を中心とした人情ストーリーなら、家族以外の地域とのつながりが希薄すぎます。小さくてつぶれそうでも四世代続いている(おじいさんのおじいさんから続いているのですよね)老舗の旅館なのに駅前の人たちがあまりに他人行儀で、今までこの家族はどこで暮らしてきたんだろうというほど、地に足がついていません。一人息子が行方不明になったら温泉街の旅館組合の人たち総出で捜索したっていいはずなのにその気配もありません。子供の心配をしているはずの家族がはねられた他人の子供を目の当たりにして、「良かった」とか、「この子よりひどいことに…」などの言葉は人情がなさ過ぎます…。以上のことは、ささいな、細かい突っ込みに過ぎませんが、小さくともキャラクターたちに対する「地に足をつける」努力を積み重ねることで、個人の想像の産物であるストーリーが、読者さんとの共有の感情を持ったストーリーになっていくと私は考えます。上のような私の、作品をキチンと理解しようとしない分からず屋な言葉に、どうか怒って、せめて大切な読者さんにはこんな言葉を感じさせずにすむくらい、親切に、心から、この愛らしい家族のストーリーを、キャラクターを、言葉たちを、伝えてあげて下さい。その努力を今以上にして下さい。あなたのこれほどの努力に見合った作品が、今後さらに多くの読者さんの喜びにつながるよう、期待しています。
■山本おさむ先生
絵はいいし、場面・場面の表現力もあるが、ストーリー展開が平凡。「宝くじが当たった」というアイデアが、作者が思っているほどいいアイデアではないと思う。それにストーリーが振り回されてしまっているし、誰もが予測できるような展開になってしまった。ネーム段階でもうひと努力を。
■乃木坂太郎先生
作画技術は今回のNo.1だと思います。丁寧に書き込まれた家族の表情も楽しませてもらいました。松竹新喜劇のような作品ですね。しかし、ストーリーはあまりにも予定調和で平凡すぎます。宝くじを燃やすという主人公の行動が、唐突に出現したおじいちゃんに命じられて…というのも、がっかりしました。2億円のくじや幸運のシカもそうなのですが、一家で動かすものが全て作者が御都合的に設定した外部要因であるのがつらいです。一家がもっと自分たちで考え、行動してこそ、再結束する姿に感動が生まれるのでは?

佳作

『ライン』中山豪(埼玉県・29歳)

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■黒丸先生
これまた絵が上手です。まだ荒々しさが強いですが、しっかりしたデッサンの下地ができているので、情報の取捨選択をすることによってさらにレベルアップできるのではないかと。“いまどきの漫画”に出てくる読者サービス満点のヒロインとは違う、リアルな主人公の造形や性格描写などは、突き抜けていて潔く感じました。すさんだ街の雰囲気もイイです。ストーリーは、うまくまとまっている。悪くはない。…はずなのですが、構成や演出のためか淡々とした印象でした。特徴として気づいたのは、心情を表わす言葉がとても多いこと。もっとモノローグを削って、表情や具体的なエピソードで彼女の心情を描いてもよかったのではないでしょうか。この作品では、全ての心情を彼女自身が説明してくれるので、読者は「想像」する余地がない。「想像」とは彼女の身になって考えることで、それは「共感」につながります。「共感」させることができれば、読者に物語の表面をなぞらせるだけでなく、奥へと引きずり込むことができます。せっかくいい表情が描けているので、自分の表現力にもっと自信を持っていいと思います。
■高橋しん先生
伝えたい気持ちを作品に込めたいのだという強さがあります。もっと読者さんを信じることで、自分の伝えたいことを信じることで、もっと漫画が良くなります。この作品は、きっと主人公の目線にもっともっと描き手が立つことが大事。悔しい、やるせない、求めたい、立ち上がりたい。読み手より何倍も、震えるほどに描き手が感じることが大事だと思います。絵は十分上手です。これから作品を重ねていくごとに、どんどんいい意味で読みやすくなっていくでしょう。課題は、画面の構成のメリハリをもっとつけて行くことだと感じました。特にページの割り振りやコマ割がせっかくの主人公たちの情熱を伝えきっていないと感じます。漫画は、伝えたいこと、感情も感動も、コマ割、台詞、絵、その総合で表わすメディアです。喜怒哀楽、嬉しさ、悲しさ、高揚する気持ち、情熱。もっと割り振り、コマ割で表現出来るはずです。台詞や人物の絵に託していた伝えたいことを、もっと画面構成に託して、読者さんに預けてみてはどうでしょうか。きっと主人公や、周りの魅力的なキャラクターが今よりもっと生きてくると思います。
■乃木坂太郎先生
手堅い作画と作劇で最後までひっかからずに読めました。冒頭の3コマ、主人公の親父のリアクションがなんだか妙におかしくて、やけにウケてしまいました。全体的に表情が少し乏しいので、もっと工夫すると見違えると思います。ストーリーはあまりに公式通り。悩んでる主人公がスケートボードに出会った時点で、残りのページが消化試合のようになってしまってます。自分の殻を破る物語は新人賞の定番です。他の作品から頭二つ抜きんでるためには、ラインを超えた向こうにあるものを作者なりの視線でもっと確かにつかむ必要があるのではないでしょうか。
■山本おさむ先生
主人公の心情はよく描けているが、ストーリーがパターンにはまりすぎている。父親の描写、母が逃げた、男の登場などよくあるパターンにすぎない。スケボーでガードレールを飛び越えても、少女の現実は変わらないのでないかと思ってしまう。主人公にどんな設定、どんなストーリーを用意してやればいいのか、ネーム段階でもうひと工夫して下さい。

佳作

『家族のかたち』ロッカ赤松(広島県・21歳)

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■黒丸先生
21歳の作者らしい、若さを感じる作品でした。初々しい爽やかさというより、カラカラに乾いた危なっかしい若さです。エンターテインメントとして、ここが良くないあそこが悪いと言っていいのか分からないような迫力がありました。とはいえやはり商業漫画の賞なので、印刷して雑誌に載せることを目標とした上での感想を書かせていただきます。絵に関しては、まだペンタッチが粗く、デッサンや画面の整理などを含め総合的に努力が必要だと感じました。しかし目に個性のある独特の絵柄は、なかなか妖艶で魅力的です。ストーリーは、これはこれで十分成立しています。ただ少し気になったのは、主人公が障害を負った父親を憎むようになる過程。最もストーリーを牽引しキーポイントになるはずの部分がかなりあっさり描かれていて、冒頭の家族団欒の姿が微笑ましかったからこそ、唐突で不思議な感じがしました。確かに実際にこのような経験をすれば、ごく自然にこの主人公のような思いを抱くのかもしれません。しかしこれは漫画で、主人公はキャラクターです。読者の理解を得るには具体的なエピソードをもって、読者を説得しなければいけません。主人公がなぜ父親を憎んでしまうのか。その理由がもっと具体的に、強く描かれていれば、彼女という人間がより深く理解できたのではないかと思います。父親が廊下で倒れ、父親を憎んでしまう自分を「なんか言えって」と苦しむシーンは秀逸でした。
■高橋しん先生
描きたいことが、まっすぐ読み手に伝わってきます。これはとても重要で、でも、一番難しいこと。作品を読み終わって、何かわからないけども何かを得たような気持ちになります。これも重要で、難しいこと。物語に関しては、ただただ、これから先、何作も何作も重ねていってもらえる事が楽しみです。絵に関しても、本質、とてもきれいな絵ですので、やはり何作も何作も描く中で魅力を伸ばしながら洗練されていくでしょう。今後は雑誌に載り、不特定多数の出来るだけ多い読者さんに読んでもらうという前提で、例えば作中の娘さんがお父さんに接するように、どうか一人一人の読者さんに優しく親切に、時に恐れながら、画面を作っていって下さい。画面の仕上げ、ノド部分の処理等の基本的なことから、自分が魅力に思い伸ばしていきたいと思う事への努力を懸命に形にしていって下さい。読んで下さる読者さんの顔を思い浮かべ、逃げずに真摯に作品を重ねていかれることを期待します。
■乃木坂太郎先生
少女の心中での葛藤には素直に感情移入できました。ラストページの少女の一言にもドキリ。理不尽な状況を受け入れられるようになっても、やはり一握りの割り切れない思いは残りますよね。ただ画力が力不足。年齢の描き分けも不足気味です。ラストのベンチに腰掛けてる二人がカップルなのか親父なのか不明でした。細部の作り込みによってエピソードの意味は変わってしまうので、次回はもっと読み手を意識した画面作りを心がけてほしいです。もっと伸びる人だと思いますので。
■山本おさむ先生
絵は独特の雰囲気をもっているが、この題材はまだ作者にとって難しい題材なのではないだろうか。主人公が父親を受け入れる場面に説得力がない。もう少し、軽い題材を描きこなせるような力をつける必要があるし、そのような方向をとったほうがいいと思う。