第68回

新人コミック大賞 発表

青年部門


入選

『熱り』富士曜(東京都・26歳)

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■黒丸先生
これは…好みは分かれるかもしれないが、私はとても楽しかったし面白かった。主人公二人、特にスレた大人の“享子さん”は、リアリティのある破天荒さがとてもイイ。絵柄には古さを感じるが、うだるような暑さの表現、どことなく昭和の香りのする街の景色に絶妙にマッチし、60〜70年代の古い日本映画を見ているようだった。バカバカしくも見える、主人公たちの「嫌がらせ」も、昔のカルト映画(?)を作中に登場させることによってうまくまとまり、ここまでくるといっそお洒落。絵・キャラクター・セリフ回し、そして物語。見たことの無い絶妙なマッチングは、計算してできるものなのだろうかと思った。構成は少しつなぎが分かりづらいところがあったが、一コマ単位の構図はよく工夫されていて面白い。この先、味を消さない程度に「読みやすさ」も意識していくと、このカルトっぽさを愛する読者は増えてくるかも。
■高橋しん先生
不思議に魅力的な作品です。実は、初見の時にはピンと来なかったのです。二回、三回と読んで行くうちに、絵の魅力やキャラクターの魅力に触れて行くうちに、とても可能性がある方だと感じました。キャラクターが描けるという意味でとても絵がうまい方ですね。表情に意思がこもっています。これは一般に絵がきれいと言われる人でも、伝わってこない方が結構いらっしゃいます。セリフやストーリーを追うという事と並行して、その時々のキャラクターの意思や魅力を伝えて行ける事はとても力のある武器になるはずです。ぜひぜひ伸ばして行ってください。課題は初見で感じた、絵や画面構成やストーリーの取っ付きの悪さです。私や、編集さんは「そういう仕事」ですから多少手が伸びない作品でも、読んでページをめくるのを止める事もなく最後まで読みますが、読者さんはそうではありません。『マタマタ列島2』に亀が大量に出てくる映画だと理解して読み進めてくれる人はとても親切な人だと思ってください。特に美人という訳ではなく、勤務態度も不真面目で取り立てて性格も良さそうに見えない主人公の魅力が解ってくるまで読み進めてくれる人は、とても心が優しい人だと思ってください。作品の魅力を伝えるために、どうかこれから、優しい人ばかりに頼らずにまず自分から読者さんに対して、親切で優しい人になってください。作品を描くという事は、読者さんと面と向かって付き合うという事です。話をするという事です。
■乃木坂太郎先生
楽しませてもらいました。脇役にも細かくドラマが仕込まれていて、奥行きのある、いい作品だと思います。背景も、重苦しくなく丁寧に作り込まれていて、読んでいて気持ち良かったです。テーマも、説明臭くも説明不足にもならず、すんなり頭に入ってきます。ただ、若干、絵柄が古いのが気になります。プロでやっていくにはもっと洗練させなければ、読み手を選ぶ作家になってしまうでしょう。とはいえ、まだ26歳ですから、その点はこれからいくらでも伸びると思いますが。過去の応募作と比べても、えらく優しい作品だなと感じました。登場人物の優しい目線を次回作でも期待したいです。
■山本おさむ先生
絵もストーリーも、もっと整理してスッキリさせたほうがよい。カニを使って何かを撃退というアイディア(?)が、母を慕う子どもという設定や不動産屋という設定としっくりこない。つまり、ミスマッチのオンパレードです。逆に、それを狙うなら、もっとスピード感のある展開や、そのための各種設定が必要である。絵においても、ストーリーにおいても、丁寧な作業・思考を。

入選

『バーコードロボ』クロマツテツロウ(東京都・30歳)

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■黒丸先生
今回は本当にこればかりですが、この作品もキャラクターがとてもいい。特に「親父」は愛すべき男で、彼のおかげで3割増しで面白く読めた。ストーリーも、筋がとてもいい。描きたかったものもよく伝わり、特に後半の主人公と「親父」の会話には胸を打たれた。これは演出の勝利かと。惜しむらくは、タイトルにもある「バーコード」の使い方。ミステリアスな要素で本来ストーリーを牽引すべき小道具なのに、うまく使い切れていないと感じた。結局、このバーコードは何だったのだろうという疑問も残るし、主人公の友人たちの話が真実であれば、かなり大規模な組織が関わっているということになり、その割には問題の解決が安易だなという印象。クライマックスにもうー悶着あっても良かったかも。
■高橋しん先生
キャラクターがみな優しく魅力的。人を濃く泥臭く、でもまっすぐ優しい目で描けるのは大事な才能です。机上で勉強して身に付く物ではない力です。一番の課題は、周囲の存在感のあるキャラクターに比べて、主人公が一番弱い点です。主人公を普遍的に等身大で描くという事は、作品によっては大事な事ですが、それと存在感があり魅力的であり感情移入したいと思わせるキャラクターにする事は矛盾する事ではありません。主人公は、作者が設定したから主人公なのではありません。それではただの語り部です。主人公は作品を通して読者さんの中で存在が成長し、読者さんにこれは主人公だと認めてもらう事で、初めて主人公になれるのです。あなたが人を好きになる時、この人はいい感じだなと思う時、見直したよと思う時、この人と付き合って行きたいと思う時。主人公を好きと思ってもらうために、うわべではなく、自分が信じる魅力を、どうか頑張ってもっともっと育ててあげてください。今後、とてもいい作品達を描ける可能性があります。期待しています。
■乃木坂太郎先生
何やら不穏な空気をはらんだサスペンス風の前半から、一気にハートウォーミングな父子ドラマに転調するのに少し戸惑いました。主人公と親父の普段の生活エピソードがもう少しあれば、後半も唐突感なく読めたと思います。日常を積み重ねる中で育った父子の情が、別れの際にお互いに溢れ出すという話なので、あとで前半を読み返し、「ああ、こんな日常をあの父子は大事に思っていたのだな」と、しみじみさせて欲しいわけです。バーコードロボというアイディアは面白かったです。ダメ親父にバーコードが付いてるのが、妙なおかしさがあって、いいキャラだと思います。ラストは少し簡単に畳み過ぎた印象。みんないい人で終わってしまい、当然あるべき葛藤を投げ出しちゃってます。ドロドロさせれば面白いわけでもないので、これはこれでありかも、と思いますが、それにしても全体の構成が歪な感じがします。次回作はもっとエピソードのページ配分に気を配ると良いと思います。
■山本おさむ先生
ラストのネタ明かしはやや苦しいが、それまではとても面白く読めた。次々とアイディアを出し、意外な設定・展開で畳みかけてくるストーリーテリングは気持ちいい。キャラ描写の小技もうまい。ラスト近くに関しては、“都市伝説”というキーワードをもっと使うべきだったろう。これでは尻すぼみ。絵の完成度に難があるが、ストーリ一作りの力量は評価される。

入選

『何かを見つめる怒れる少女。』
長谷川碧李(奈良県・22歳)

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■黒丸先生
若々しい怒りがぶちまけられた、とても勢いのある作品。絵柄は個性的でこの路線自体はいいと思うが、どうしても特定の作家の影響を強く感じてしまう。それでも成り立っているのはある意味スゴイが、二番煎じは「二番目」でしかなく、それではこの作者は勿体ないと思う。センスはあると思うので、さらに自分なりの進化を模索してほしい。ストーリーはセオリー通りできちんと作られているが、読後があまりスッキリしなかったのは、結局最後まで根本的な解決がみられなかったせいだろうか。怒ってばかりの主人公が最後に笑えただけでも良かったのかもしれないが、それなら笑顔の絵をきちんと見てみたかった。キメ絵はとてもいい。
■高橋しん先生
才能があります。このまま何作も何作もいろんな作品を重ねて行くのを見てみたいです。その先で生み出される作品が見てみたい。当たり前ですが、この作品が必ずしもベストではないけど、作品群の中では十分意味を持つかもしれないから。もう作家として、作品として成立していますので、あとはただただこの先、作品を沢山描いて行ってほしいと期待するだけです。ですから、ここから先は読者としての私の感想で、蛇足になります。失礼を許してください。私にとって、このラストの見開きのバカ君の落ちの台詞は、もっと違うものを期待していました。バカなりの深い言葉か、バカでも肝要な事は解っているんだ、そういう言葉がくると思っていたから。今までためてためていたものが、深い意味で救われる様な気がしていたから。失礼な言い方かもしれないけど、これはあの愛すべきバカ君の心から出て来た言葉ではなく、誰かから借りて来た言葉のように感じました。もちろん、これは私の個人的な感受性の問題で、「鈴子は鈴子だと思うなぁ。」をベストと感じる方が沢山いるだろうと解っている上での、小さな感想です。私のような作品の肝が解らない人に合わせる必要はなく、これからどうか何作も何作も伝えたい作品を描いて重ねて行く事を、本当に期待しています。もう一つ蛇足。私の一番好きなシーンは12-13ページの見聞きです。いい空気ですね。
■乃木坂太郎先生
個性的な絵ですね。画面作りに熱がこもっていて、好感が持てます。余談ですが、鈴子と坂下くんを見て、カートゥーンのビリー&マンディを思い出しました。底抜けにアホのビリーと、いつも不機嫌なマンディのアニメです。大好きでした。鈴子の気持ちには共感できます。自分の力ではどうにもならない環境に苛立ち、自分を決めつけてくる同級生やその親には、暴力でしか抵抗することができない。それは鈴子自身がまだ何者でもないからなんだけれども、子どもにはどうすることもできないんですよね。それを全部ひっくるめて肯定してくれる坂下くん。救われるのは分かる人だけで、少々坂下くんが便利に使われ過ぎている印象です。坂下くんは救いを与えるためだけの存在に見えるので、ありのままの鈴子を受け入れても、そこにドラマは何もなく、鈴子が一瞬の慰めを得るだけの閉じた物語に感じられます。できれば、この力ない子どもたちにもう一歩踏み込んだ救いをメッセージとして込めて欲しかったです。
■山本おさむ先生
妙なエネルギーがあるのはいいのだが、結局何を言いたいのか、よく理解できぬまま読了した。見聞きの絵はいいのだが、ストーリーの煮詰め方が悪いので、その絵に何が込められているのか分からない。いじめ・報復、いじめ・報復の繰り返しで、ストーリーの内面がまったく進展していないのである。自作ネームをよく読み返せば、気付くはずなのだが、気持ちだけで突っ走ったのではないだろうか。

佳作

『食乱みーちゃん』赤嶺タダシ(東京都・44歳)

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■黒丸先生
ストーリーそのものは、特に目新しさもなくシンプルかつストレートなもの。なのに、楽しく読めたのは、ひとえに「みーちゃん」のキャラクターに尽きる。(今回こればっかですが)どんな王道の物語でも、キャラクター一つでいくらでも面白いものになるということの証明だと感じた。地味っ子・セクシーっ子の二人格を描き分けるのは意外と難しいものだが、この作品は二人ともとてもうまく描けていた。読んでいて、みーちゃんが出てくるのを楽しみにしている自分がいましたよ。絵については、人間のデッサンやディフォルメに関しては完璧。とても上手だと思う。ここからさらにペンタッチを研究して精度を向上させ、ただ「上手な絵が描ける」だけではなく、「“巧”くて魅力的な絵が描ける」よう上を目指してほしいと思った。
■高橋しん先生
キャラクターが憎めなく好感の持てる作品です。表情も明るく前向きで嫌みがない、絵も同様で男の子も女の子も可愛らしいです。せっかくそういう才能があるのだから、あと一歩踏み出して、読む人にがんばって魅力を解ってもらいましょう。「食乱」というアイディアを思いついたのであれば、ドタバタを考える前に一歩思いとどまって、キャラクターを掘り下げてみたらどうでしょうか。この二人が惹かれて行く、付き合って行こうと思う、彼らの中には何があるのか。漫画の中のキャラクターであっても、そこは読者さんや自分と同じ、生きた人間として考えてあげてください。また、キャラクターだけではなく、彼らが生きている空間にも彼らを生かすために気を使ってください。例えば、絵がうまくて描けるはずなのに食事を美味しそうに描こうとしてないように見えます。手癖で描いた居酒屋料理。資料をあたっていないレストラン料理。こんなもんでいいよね、と読者さんに隙を見せている場合ではありません。あなたの大切な作品のヒロインが、食に対する悩みを抱えているにもかかわらず、たとえ居酒屋科理でも、美味しそうな料理を美味しそうに食べ、そして笑顔を見せる。テーマに沿った形で読者さんに魅力を感じてもらえる大きなチャンスです。キャラクターを掘り下げるというのは、大げさな事ではなく、そうしたキャラクターと周囲の事、一つ一つに出来るだけの気を使ってあげる、そういう積み重ねにも沢山あるのだと思っています。
■乃木坂太郎先生
達者な絵、手慣れたネーム、特に分かりづらい部分はありません。技術的な部分では、一定の水準に達している方だと思います。雑誌に載っていても、違和感はない画面が作れてます。で、メインアイディアの「食乱」ですが、酒乱との差別化ができてないのが残念です。ありきたりな二重人格ものになってしまっていて、乱れたヒロインのキャラクターもありがちなビッチ系で目新しさに欠けます。一種のファム・ファタールものなのだから、思わず表紙買いしてしまうような、魅力的なヒロインを作り上げて欲しかったです。作者の性癖が臭うほどに。主人公も何となく彼女に惚れるのではなく、例えば、美女が食い過ぎて吐く姿に、かつてない興奮を覚えて、とか、特殊な関係に閉じていく方が面白いなぁと感じたりしました。今のままでは、コメディーとしても中途半端では?
■山本おさむ先生
一回目のデートと、二回目のデートで事があまり進展していない。つまり、“食乱”というアイディアだけではストーリーが動かないという事だ。後半にも二の矢、三の矢とアイディアを出して、前半を乗り越えていかなければならないのだが、それが無く、繰り返しになってしまったのが残念。読者は二人がラブホテルへ行くような展開ぐらいは期待しているのではないだろうか。絵やコマ割りは一定レベルに達しているので、以上の事を課題として次回作を。

佳作

『ゴリラ見忘れちゃったね。』シュクコ(東京都・24歳)

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■黒丸先生
とても雰囲気のある作品。主人公の男の子に不思議な魅力があり、よくある「自殺願望モノ」に出てくるようなとても好きにはなれない平凡なキャラクターとは一線を画していると感じた。短いページの中に巧みな構成でまとめられており、読んでいる間に手が止まらなかった。物語の展開も意外性がある。個人的には「自殺願望」の物語は食傷気味。それでも、この作品がある程度楽しめたのは、やはり主人公の男の子の魅力とかわいい絵柄に尽きると思う。タイトルがセリフとして最後まで登場しないところも含めて、この作者はいい意味で「食えない」と思った。絵柄は素敵だが、この仕上げの雑さを個性・味ととらえるか、手抜きととるかは難しい。基本的に雑なのは許せないタチだが、この作品に関しては読者に判断を委ねてみてもいいかもしれないと思った。次は自殺ネタから離れ、何かしら能動的な「イベント」が起きる物語を読んでみたい。
■高橋しん先生
夢のあるお話ですね。あとは、読み手の感受性やリアルに、どれだけ接点を強く強く描けるかです。受け皿を幅広くしてもいいし、むしろ尖って突き刺しても。それは作家の自由な、しかし大事な選択です。多くの読者さんに読んでもらうための努力は必要ですが、刃先をなまらせる事に繋がらないように気をつけてください。多くの読者さんの感受性に合わせる必要はありません。むしろ、作品の感受性を美しく尖らせて、多くの人がその感受性を共有したいと思ってもらう事、こちらが大事と思います。作者は読者さんを選べませんが、読者は作者さんを選べます。安心して研ぎすまして行ってください。絵は慣れてないだけで基本うまい人なので、これから描いて行けばいくらでも上達していくと思います。画面の構成も、リズムも、とてもうまい。ストーリーの運びも解りやすくしっかりしています。今後の作品、沢山描いて行く事を期待しています。
■乃木坂太郎先生
いわゆる雰囲気マンガでしょうか。恋愛でも友情でもない、微妙な「共犯関係」めいたものが育っていく気分は描けていると思います。しかし、どう受け取っていいか分からないシーンが多く、すっきりしない読後感です。なぜ、“うえはら”は“さだち”のシューズをはいているのか? どこで入手し、何のために所持している銃なのか? 少女に銃を渡した時点で空砲に合わせてあったのか、それとも、本当にロシアン・ルーレットの引き金を引かせたのか? “うえはら”が“さだち”の自殺の原因ではないのか? 細部がひどく暖昧なので、サイコパスの“うえはら”が新しい標的を見つける話にもとれますね。あくまで作者は、ヒロインにとって“うえはら”は、危ういパーソナリティーを秘めた魅力的なアニムス的存在として描写してるつもりと解釈したので(扉もそんな風になってる)、この辺りの暖昧さは刈り取って欲しかったです。あと、重要な小道具であるリボルバーは、資料を揃えて手を抜かずに描きましょう。学生が銃を手にする異常さ・怖さが、もっと引き立つはずです。――最後に、個人的に“うえはら”は本物のクレイジーだと思います。ヒロインが引き金を引く瞬間、カメラを構えながら、性的興奮を得ていたに違いないでしょう。
■山本おさむ先生
この作品にドラマがどうの、キャラがどうのと言うのは、あまり意味がないような気がする。しかし、ドラマではなくとも、いわゆるかったるいリアルな日常を描いたものとも言えない。結局、二人のやりとりを動かしているものは銃であり、オチとして使われるのは自殺者の存在である。しかし、作者は描くと厄介になりそうな、この二つの事をスルーしてしまっている(その意図はよく分からない)。コマ割りも絵の雰囲気もいいので、はっきりとした読後感を与える次回作を。

佳作

『Heart's Knock』三輪亮介(千葉県・27歳)

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■黒丸先生
素直で繊細で、直球なお話。丁寧な描写には好感が持てる。ただ、テーマがストーリーの流れにピッタリと合いすぎて、直球ゆえにヒネリが無い。漫画的な面白みに欠ける印象を持った。主人公や老婆とまったく同じ経験をした人ならいざしらず、そういう境遇にない読者を主人公たちの位置まで引きずり込むには、もっと手練手管を用いる必要がある。愛する人を失った青年が、同じ傷を持つ老女と知り合い、お互いのことを語り合う。それだけでは、物語に必要不可欠な展開が乏しい。主人公たちが必要としていることを作者がそのまま提供しているだけでは、物語の面白さを最大限追求したとは言えない。個人的には、まるでついさっき愛する人を失ったかのような老女が、60年間どうやって生きてきた(文字通りどうやってお金を稼ぎ、人と会話をし、ごはんを食べてきたか)のかが分からなかった。終盤に「愛する人は戻らない」と主人公に言われた彼女はすでに達観した表情で、序盤に涙を流していた人物像とは一致しない。青年と関わる中で哀しみを乗り越えていったのかもしれないが、彼女が60年間に出会ってきた幾多の人物との出会いや別れ、経験してきた全ての出来事でも克服できなかった哀しみが、この一青年の身の上話で解決するのがピンと来なかった。60年という年月はとても長く、そして重いから。もちろん、こういう出来事も現実に無いとは限らない。だがそれと、物語として説得力を持たせられるかはまた別の話。絵のレベルは、仕上げまで含めて完成度は高い。ただ背景のトーン処理に既製品を使っていると思うと萎えてしまうのは、私が古い人間だからかな? 「空」もキャラクターの心情を表現する重要な要素です。作者の思いを一番伝えたい、ここぞというシーンの「空」が、どのシーンでも合うように当たり障りなく作られ、かつ他の作家も使っているような既製品でいいのか。個人の価値観の問題だと思いますが、若いのだから、もっと表現することに貪欲になってほしい。でないと、あらゆる背景・小道具を駆使して描きたいことを表現しようとする他の大先輩たちには勝てないと思う。
■高橋しん先生
理屈でなくジンと来ました。30ページ程度の読切で、この「ジンとさせる」は結構得難いもの。せっかくの武器を生かすためにもっともっと導入、流れ、キャラクターを懸命に考えて育ててほしいです。今のままでは、キャラクターはストーリーに合わせて「設定」された都合のいい人たちに感じます。作者は神様ではありません。ストーリーも大切ですが、ストーリーは入れ物、器であり、キャラクターに対して主従を逆転させる事はありません。あくまでキャラクターを生かすためにストーリーがあるのだと思ってください。例えば、里芋の芋の煮付け、とても大事なキャラクターと言えるものなのに、あまり美味しそうに描いてませんね。おばあちゃんが毎日悪い体で作ってるはずなのに、その過程も描いていない。読者さんが知りたいのは里芋という記号ではなく、感情や、感覚を呼び覚ますための「感じる」キャラクターとしての里芋です。キャラクターを描くという事、もう一歩頑張って前に進んでください。せっかくの伝えたい事を沢山含んだ作品、その伝えたい事は、作者からではなく、好きだと思えるキャラクターから伝えてもらう事を読者さんは期待しています。だから漫画を読んでいます。
■乃木坂太郎先生
絵は非常に上手いですね。老女が可愛く描けているし、印象的な画面が作れていると思います。嫌味のない絵柄は将来的に強い武器になるのでは。お話の方は何度読んでも腑に落ちないというか、後ろ向きに生きているとしか思えない老婆が、主人公に何を伝えたのか理解できませんでした。おそらく主人公は、幼なじみを日々忘れていっている。忘れるために思い出を掘り起こし、心を傷付け、彼女に殉じるつもりなのだろうが、それでも何かが失われていくと感じている。同じように傷付いている老婆と触れ合うことで、「愛」が個人の人生や時間を超えて、いつもそこにあると信じられるようになり、新たな人生を踏み出す、といった話だと思うのだけれど、追憶にひたるだけの老婆が主人公に諭すことに違和感を持ちました。主人公に教え諭すのではなく老婆もここで初めて気付くべきなのでは? 誰かに思いを伝えられて良かった、間に合ったと。「愛」は生きて誰かと分かち合ってこそ、心に刻まれ、時間をも超えるかもしれないと。個人的な「愛」がもっと大きなものに昇華する部分をもっと丁寧に描いて欲しかったです。あと、細かい部分ですが、主人公の友人達にも3年という時間はいろんな意味があったと思うのです。数コマしか出ない彼らですが、主人公とどんな友情で結ばれているのか、芝居を工夫して表現出来れば、もっとドラマに奥行きが生まれて、楽しめたと思います。
■山本おさむ先生
絵は即戦力として通用するレベルに達しているが、ストーリー面において、作者が本当に描きたい事に出会っていないように思える。そのため、オリジナリティーが希薄で、どこかで見たような設定・聞いた事のあるような論理の展開・互いの身の上話を語り合うだけというべタな展開に終始してしまった。一度、方向性をリセットし、自分を良く見つめ、独自のイメージ、独自の人物像など多面的に検討した方がいいと思う。