第69回

新人コミック大賞 発表

青年部門


入選

『Fコード』奥山ケニチ(神奈川県・22歳)

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■高橋しん先生
うん、作品になってます。もっと言えばもう作家になっています。作品の中だけの話ではなくて、自分とつながっている現実の生活に対して、いい意味でまじめで、誠実であること。それが作品の根底に感じられること。大切な才能だと思います。これから作者さんがどこを目指していくのか、作者さんの大切な選択です。こういった誠実で味わい深い作品を十も二十も積み重ねていくことも、編集さんとの打ち合わせの中で生まれてきた自分の中の新たな作品の衝動を描いていくことも。基本的に人と向き合うことに照れのない作者であれば、いい作品を描いていく可能性を持っていると思います。この先、大切なのは自分の頭の中だけで閉じないこと。何作も描いていくといつの間にか頭の中だけでストーリーをこねくり回していることがあります。自分では何か形になったと思っても、小さなメッセージとつじつまの組み合わせでしかなかったり。自分の世界観を大切に持っている人は、特に気をつけて、外へ、外へ、開いていきましょう。私たちは新人さんの中に、今ある材料で描く何かではなくて、そのフィルターを通して新しい素材をどんな風に描いていくのかを、その可能性を見ています。ここから先は蛇足ですが、評価にはもちろん考慮していない点ですが、暴力に暴力で返すのは、いじめの対処法として適切だとは、個人的に思いません。セイケンレッドは暴力が得意なヒーローなのかもしれませんが、主人公や連れ子の少年や読者さんが受け取るべきはヒーローの持つ心や勇気であって、手段ではないと思います。今回の作品を認めた上で、私は暴力での解決よりもっとその先があることを漫画には期待します。漫画ならもっとその先に乗り越えていける力があると思っています。
■山本おさむ先生
これだけ描けていれば上等だと思います。各要素が無理なく連鎖され、省略や強調もツボを得ていて、短編としての完成度も十分。しかし、例によって“いじめ”がクライマックスになるが、この“いじめ”連中の登場がちと早い。その前の“捨てに行く”という行為がスリリングなのだから、ここをもう少し描くべきで、主人公が具体的に何を考え、どこに行こうとしていたのか、そこにこそ作者の独自性が出ただろうと思われる。しかし、基本的な力量はこれで十分と思うので、次のステップは“家庭の事情やいじめで心を閉ざした少年”という、ありがちな人物像から一歩抜け出した発想で考えてみてほしい。
■いわしげ孝先生
いい話ではないか。このページ数だと父親のキャラクターをもっと出せるし、家族シリーズでも描ける。
■黒丸先生
ほのぼのとした、独特のテンポがいいですね。絵は硬めなんですが、不思議と冷たくなくて味がある。特に弟は可愛らしかったです。読みやすいし、クライマックスのカタルシスもある。きれいにまとまっていて、総合的にいい作りの作品だと思います。ただ、個人的には、主人公はお母さんに言いたいことはなかったのかな?という感じでした。突然の闖入者たちに抱く苛立ちは当然として、彼らを自分に相談もなく受け入れている母親を、主人公は許しているのですね。父親のギターを勝手に触った義父に対する怒りも、“なんとなく”解決している気がして読後はちょっともやっとしちゃいました。弟の存在は和解のきっかけになったと思うんですけど、もうちょっと義理の親父とぶつかってほしかったかな。あの親父が彼にとって一番の問題であるのと同時に、親父そのもののキャラクターも良かったので。弟との和解がクライマックスのエピソードであるなら、ギターをいじるのを弟にするなど、キャラの関係を1対1に絞った方がよかったかもしれません。ラストシーンは素敵だと思いました。
■乃木坂太郎先生
読み物として普通に最後まで読めるのだけど、投稿作として最もありふれたタイプの作品なので、感想が出にくいです。変なキャラの義父は嫌いじゃないですが、結局ただのいい人の役回りなので少々残念。もっと激しい人間関係の摩擦が見たかったですね。この白茶けた地味な画面がこれからどう変わっていくのか想像できないけど、もっと艶っぽさがないと読者を引きつけるのは難しいと思います。がんばって!

入選

『魔女のミゼルカ』藤本正二(神奈川県・29歳)

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■高橋しん先生
独自の世界観が魅力的。キャラクターもテクニックではなく素直に魅力的にかわいらしく描かれています。ストーリーも、これは他人がどうこう言える世界ではなく、編集さんから少しアドバイスをもらうことで、過不足無い物語になるでしょう。個人的には、この作品一作だけでとらえるなら、物足りない気がします。どうせ賞に出すなら、この魔女の生活で春夏秋冬4本くらい描いて一緒に応募してもいいくらい。その努力に見合う世界観だと思います。私もこういう作品を描く才能があれば描いてみたいと思ってしまう気持ちのいい世界観ですが、描き続けるには覚悟が必要。独自の世界ということは誰にも本質的なアドバイスはもらえないということ。漫画家は編集さんを理屈ではなく“ただ面白い”という力でねじ伏せて読者さんに作品を届けなければいけない時があります。でも、その力があると信じたい作者さんです。
■山本おさむ先生
私には好きなところと好きになれないところがある。陽が昇って光が家まで走ってくるというイメージはいい。これはストーリーの中でうまく使えば、効果を上げそうだ。しかし、“赤リンゴ”を取りに行くのと“20歩で通り抜ける”というゲームがちっとも面白くない。作者はファンタジー(メルヘン?)の雰囲気だけを追っていて、キャラの造形に心が向かっていない。キャラの心に目が向かないから、最後の花火にもカタルシスがもたらされない。その辺り再考を。
■いわしげ孝先生
可愛い、メルヘン。でも、僕なんかがどう言えばいいか分からん。
■黒丸先生
とにかく絵がカワイイです。主人公の顔も姿も動きも、そしてこの世界そのものもかわいかった。うるさくない程度に世界観を構築していて、これは連作で読んでみたくなります。大変楽しく読めました。ページはもうちょっと絞ってもいいかもしれません。基本的に絵の上手い方だと思います。惜しい点を言えば、アップだと主人公と友達の見分けがつきにくいこと。あと動きのある絵はとてもいいので、次は「読者の目を止めたい」というキメゴマを作ってみたらどうでしょう。絵の上手い方によくあることですが、どのコマもサラサラーッと描けてしまって、読者の目が止まらない。シンプルなことですが、時間をかけて描いたコマでは自然と読者の目が止まるものです。サラサラ描いたコマは、読者もサラサラ読んでいきます。キメゴマができれば、もっと物語にもメリハリがつくと思います。この雰囲気を大事にして、さらに深いキャラクターの心の動きを描いてみてほしいと感じる作者でした。
■乃木坂太郎先生
ミゼルカの家に光が差し込む絵はすごくよかったです。個人的にはここがクライマックスで、あとは取り止めのないアクションが続くだけ。もっともっとミゼルカの気持ちに寄り添って、何かを発見したり、感じたり、やさしくなったり、怒ったりしたかったです。こういうファンタジーは色や動きのあるアニメに比べると不利なので、もっと繊細にマンガにしか描けないイメージ、表現を掘り起こすべき。

入選

『自宅 Rock ON』岡田アツシ(大阪府・30歳)

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■高橋しん先生
なんだか面白いなこれ。絵も丁寧だしキャラクターもいきいき漫画しています。題材も“好き”が伝わります。ただ、そのいい要素が、うまく手を取り合って読み手側に楽しさとして伝わってきていないと感じます。作者さんに「どんな人に読んでもらいたいか」具体的な読者さんが目の前に浮かんでないように思います。主人公の彼が誰かに聴かすはずの音楽をいつの間にか見失っているように、作者さんが楽しくインパクトがあり面白い漫画を追求しているうちに、この漫画を思いついた時の「こんな物語を読者さんはきっと楽しんでくれるはず」を見失ってしまった印象です。これから、編集さんの客観的で親身なアドバイスを参考にしつつ、最初の“伝えたかったこと”に集中して漫画を描いていけば、もっともっと焦点がハッキリしてくるのではないかと思います。楽しく、好感のある漫画を描く才能は十分持っていますし、絵の丁寧さは読者さんへの心遣いに満ちています。あとは、誰に読んでもらいたいか、そこだけを必死に考えてほしい。自分がこれは楽しいと思う、ではなく、目の前の読者さんに、どうぞ一緒に楽しみましょうと言える勇気を。がらりと作品が変わると思います。
■山本おさむ先生
いい題材なのだが、この作品自体が自宅録音レベルに止まってしまっている。音楽で言えば、「メイキング・オブ―」の世界であり、本編であるべき曲が描かれていない。ビートルズの映画『レット・イット・ビー』で屋上ライブが無いようなものだ。無理矢理在り来たりのストーリーをでっちあげる必要はないのだが、日記風なディテールだけでは漫画作品にはならない。「さて、これをどうやったら面白い漫画にできるのだろう」と、第一歩目で汗を流して考えるしかないのだが……。
■いわしげ孝先生
オリジナリティー豊富なギャグが効いてて面白かった。主人公の親父がいいよ。
■黒丸先生
題材が興味深い。宅録のことは全然分からないので、読んでいて純粋に面白かったです。主人公の惨めさもよく出ているのに、全然かわいそうに思わせないカラッとした描き方がいいですね。自分が学生の頃、実家でコソコソ漫画を描いていた状況によく似ていて、全く違う世界ながら「あるある!」と思いながら、楽しく読めました。人物の絵はかわいらしくて好感が持てます。時々、立ち絵以外で身体と頭のバランスが悪くなるのが勿体ないかな。背景も丁寧なのですが、やはりところどころでパースが歪んでいます。逆に言えば、そういった技術的な問題さえ勉強してクリアすれば、“絵の魅力”という点ではなんの問題も無いということです。面白くダイナミックな絵が描けていると思うので、今後は細部を詰めていって欲しいです。宅録機材の絵は、作者の愛が込められていて良いですね。会社の人が主人公の曲を聴いてどういう反応を示すかが気になりましたが、彼が音楽で成功しないところが、“いかにも”で面白かったです。想像の余地を残す、潔いラストだったと思います。実録的な要素を排し、純粋に“物語”を描いたらどうなるか、気になる作者さんです。
■乃木坂太郎先生
面白かったです。宅録の楽しさが十二分に伝わってきました。機材の事は全く分からない僕でも、何やら音をいじってる気になっちゃいました。まだまだ続きを読みたい気分です。ごちそうさま。

入選

『MUDDY FLOWER!』かわのゆうき(東京都・26歳)

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■高橋しん先生
絵もうまいしキャラクターも愛らしいし、情熱を感じさせます。これだけ情熱を注ぎ込んで描いた作品なのに、なぜか読んだあとに残るものが少ないです。なぜでしょう。話が1ページ目に戻っているからです。ストーリー上ではとても大切なものを失い、また同時に得ることで“何か”を得たように見せていますが、主人公がまた1ページ目の立ち位置に戻ってきたようにしか見えなかったからです。この作品のテーマは何ですか? どうしても伝えたいこと、こんなに情熱を傾けて大変な思いをして何十ページも漫画を描いて、伝えたかったものは何ですか? ラストの見開きの絵はそこまでして伝えたかったものですか? 彼女は失ったおばあちゃんというかけがえのないもの以上のものをあのシーンで本当に手に入れましたか? もう一度、何を描きたかったか、ヒロインのどんな顔が見たかったか、思い出してください。この作品やヒロインのもう一人の親である、作者であるあなたの義務で、責任です。短編でも長編でも同じ。作者は常にテーマに向かっていなくてはいけません。「見てほしい、伝えたい、あのシーン」に向かっていなくてはいけません。そこにたどり着いた時に、読者さんと一緒に心が震えなくてはいけません。がんばれ。
■山本おさむ先生
私のような昭和のおじさんは、これだけ描けてれば十分だと思うのだが、今の編集者の要求はもっと厳しいらしい。昭和の時代には、これくらいの新人に発表の場を与えて、育てるような“場”があったが、平成の時代はそうはいかないようなので、作者への注文はもう少し“企画”を練ってほしいという事だ。漫画家志望の少女の物語というだけでは、すでに新しくないので、編集者は「つまんなくはないけど、ちょっとなぁ……」と思うだろう。“おばあちゃんの死”や“多年草”も昭和的で平凡に見えてしまうだろう。そこにちょっとした独自の工夫、独自の切り口をプラスして(大枠の印象、つまり“企画”)「あ…それなら面白そう」と思わせるようにしてください。描写力も、話をまとめる力も、持っているのだから、企画力を鍛えて生き抜くのです。
■いわしげ孝先生
主人公も脇役たちも生き生きとしてて良い。キャラクター達の表情が一番生きてる作品。
■黒丸先生
いやー、痛い! いい意味で激痛でした。褒め言葉ですが、読むのが辛いくらいでしたよ(笑)作者の実録か?というくらいに、リアルな漫画製作漫画でした。私だったら直視できない物語ですが、それを作家として真正面から描くのは勇気がいること。そして、自分を慰め正当化するためではなく、ちゃんと物語に昇華できているのは良いことだと思います。リアルと言えば、主人公のネームを批評する編集さんの言っていることはとてもリアルでした。その編集さんの「反論はないの?」という言葉に「無い」と答える主人公。担当さんの厳しい批評を「さすがドS」ととらえ、身もだえしているドMな主人公は、私には批評を正面から受け止められずネタにして逃げているように見えました。作者もそう認識して描いているのだと思っていましたが、不思議なことに最後まで主人公が編集さんと正面から向き合うシーンはありませんでした。そのため主人公の成長が見えず、カタルシスを感じることができませんでした。ラストの主人公は、おばあちゃんの励ましもあって漫画を一心不乱に書き続けています。それ自体は悪いことではないと思います。ただ、彼女は迷いを断ち切って「元に戻っただけ」。一歩進んで“成長”を遂げたようには思えず、ドラマ性という点では一味足りないように思いました。クライマックスに至るスピード感のある演出は上手いと思います。物語に似合わない過剰なお色気は、ヤケクソ感が漂っていて、ちょっと面白かったです。作者がそれを狙ったかどうかは分かりませんが。
■乃木坂太郎先生
宙菜がどんなまんがを描きたいのか最後まで分からず、まんが家まんがである意味を見いだせませんでした。ただの女の子とおばあちゃんの話なら、多年草で終わってもいいですが、まんが家という設定を持ち込むなら、宙菜がまんがの何に魅せられたのか、彼女がまんがで何をできるかを読みたかったです。殊更に同居人を悪く描くのも少々あざとい感じ。プロになるのに必ずしもピュアである必要はないのは、プロならみんな知っているので…。生き生きした絵柄は好感度高かったです。次回作がんばってください。

佳作

『ほどかれるセンリツ』阿部元一(埼玉県・23歳)

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■高橋しん先生
まっすぐな作品で、描き手の姿勢にも可能性を感じます。絵も作品の伝えたい世界に合っています。一つ。まっすぐに流れを追っていくなら、ドキュメンタリーに負けてしまう。漫画の土壌で勝負しましょう。もう一つ。伝えたいことのために、読者さんの想像力を信じること。漫画は読者さんと漫画家が共同で一つの世界を作りあげるメディアです。漫画の目的はそこに描かれているメッセージを読んでもらうのではなく、読者さんの心の内の声として感じてもらうことです。どうぞ読者さんが自分なりの気持ちいい漫画を読むためのお手伝いをしてあげてください。テーマにまっすぐ逃げずに向かい合おうとする姿勢は才能です。その見せ方は無限です。どうしたらこの登場人物の葛藤や痛みや涙や、突き動かされる衝動を読者さんと共有できるか考えてみてください。本当はもっと点数が高くてもおかしくない、いい作品です。
■山本おさむ先生
ストーリーを考えたところまではいいが、それをそのまま説明しているだけという感じがする。“山本さん”が同病だった。ピアノをやっていた。コンクールを見ていたなど、あまりに作者に都合の良すぎる展開、つまり工夫の無さが目立つ。“いじめ”“母親の死”“トラウマ”など、在り来たりな事件と説明ばかりで、読んでいて首を捻ってしまう。難しく考える必要はないが、もう少しオリジナルな人物観、世界観を出すよう努力してください。
■いわしげ孝先生
絵は荒いのだけど、テーマの強迫性障害を乗り越えるディテールはよく描けてる。ページ数は30ページくらいに出来ないだろうか?
■黒丸先生
デリケートで繊細な物語。話の構成は手堅くて読みやすく、絵の構図も工夫が見られました。キャラクターの表情もよく動いていて、心理をきちんと描こうという気合いが見られました。ただ、勿体ないなと思ったのもキャラクターの表情だったりします。表情は写実的で、表情もとても豊か。その分、怒ったときや怒鳴っているときの表情で、ときどき「ちょっとやりすぎ」と思う箇所もありました。あくまでも個人の感覚なので難しいのですが、写実的すぎる表情は、時として真逆の方向・“ギャグ”に見えてしまうこともあります。どこかで「読者にどう見えるか」を取り入れるバランス性、ディフォルメが必要だと思います。主人公のキャラクターに関しては、普段の主人公(病気の発作が出ていない状態)の描写が少なかったため、素の彼女がどういう人間なのかがよく分からないまま話が進んで行ってしまう印象がありました。素が見えなければ、怒ったときや泣いたときとの感情の差が分かりません。分からなければ、たとえば主人公を怒らせる出来事が、彼女にとってどれだけの“重み”を持つことなのかが分かりません。分からなければ、物語の起伏もぼやけてしまう…という悪い連鎖が起きてしまいます。まずは素の主人公がどんな子なのか。それを周囲がどう思っているか。土台をきちんと組み上げ、それを読者に提示した上で、お話を進めていくことが重要だと思います。
■乃木坂太郎先生
ちかこたちは中学生なのか、高校生なのか、最後まで気になりました。思春期の物語において、年齢はあいまいにしないでほしいです。ちかこたちの心理は丁寧に描かれていると思いますが、少し単調な印象。あと、「実は同じ境遇だった」というのを抜きには人の気持ちが通じ合うドラマが描けないのか不安。力作なのになんとなく、在り来たり感がするのがもったいないです。最後に絵ですが、老若男女、皆同じタッチなので、もう少し描き分けを意識すると、高い画力が生きると思います。