第72回

新人コミック大賞 発表

青年部門


入選

『チュウカン』田口明(東京都・25歳)

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■高橋しん先生
好きです、こういう感じ。描きたいと思った事が光を保ったまま自然に物語の中に散りばめられて、読み終わった時に改めて大きな意味を持つ。計算して描けるものではないし、計算したら失うかもしれない光。その見極めを自覚して出来ているとしたら嬉しいです。“素直”は漫画家にとって、諸刃の剣になりうるけど、一対一で読者さんと向き合うという漫画というメディアの特性上、その力が読者さんに届くと私は信じていますし、新人さんの作品には意外に少なかったりする。そうした小さくて儚くても強いはずの才能を特に評価したいと思います。漫画の基本的な描き方、絵の課題、シンプルな構成の仕方。編集さんにアドバイスを貰いつつ、ここだという光はどうぞ曇らせないように自分を見失わないで描き続けてください。これからの作品に期待します。
■山本おさむ先生
28ページからバタバタとストーリーを畳んでしまった。しかも主人公と中井の話だったのが、他の人物の独白によって不自然に流れが分断されて、ラストに至っている。思うに、前半の日常描写にズルズルとページを使い過ぎて、後半作者の論理を展開すべきところが疎かになっている。前半、何らかの問題提起らしき事をしたのに、後半の結論が「やっぱり自分らしく」というのでは平凡すぎて読む側はガッカリする。「だから、こうする」「少なくとも自分はこう思う」という部分を作者はもっと追求してほしい。
■黒丸先生
評価が難しい作品だと思いました。絵柄は軽妙で読みやすく、なかなか頑張っていると思います。ただ完成度にムラがあります。まずは全体の完成度を高めることを目指しましょう。ストーリーに関しては、主人公の“脱皮”と、友達・中井の“脱皮”の重さが釣り合っていないことが気になりました。主人公の“脱皮(好きなものを否定せず、好きだと大声で言えるようになる)”は、主人公にとっては重大な出来事なのだとは思いますが、中井の“脱皮”のハードさはその非じゃない。中井が主人公に対して大きな影響力を与えた人間であるのは疑いようがないけれど、自分を隠すことによって周囲とうまくやってきていた主人公は、不器用で身も心もボロボロの中井の目にはどう映っていたんでしょう… もちろん、これは主人公の脱皮を描いた作品だから、不必要なほど中井を掘り下げる必要はありません。しかし、であるならなおさら、主人公には自分を取り巻く環境と、友人・中井の置かれている環境の差を認識してほしかった。好きなものを好きだと言えない惨めさは私にも分かりますが、中井の置かれている環境の壮絶さに比べればそれくらいなんだという話です。友情物語であるならなおさら、そこを忘れて欲しくありませんでした。中井がラブホで暮らしているという設定も生かしきれておらず、ちょっと惜しい作品でした。
■乃木坂太郎先生
生々しい設定やセリフをさらりと爽やかに描いているのは好印象。ラブホに住んでる設定は無茶だけど、ロケーションとして面白いと思いました。映画的なセンスがある人なのかな。一方、中井を取り巻いている裏社会の描写が断片的過ぎてよく分からない。なぜ警官が見逃すのか(家だから?)。色黒のヒゲ男がパトロンならタトゥーの男は誰なのか?“フクシマ”で強制労働とかヤバそうなキーワードだけが並んでいる感じ。あと、中村が描いてる漫画は、はっきり見せてほしい。松本大洋のパクリを。中井に漫画を見せるシーンは大事なシーンのはずなので、細部を逃げずに作り込んでほしかったです。

入選

『女子会Z』石川聖依子(神奈川県・33歳)

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■高橋しん先生
後半に向けて盛り下がって行く感じがしましたが…女子会とは本来そういうものかな?と思うので、リアルと言えばリアルで、こういうローテンションの展開がむしろいいという読者さんもいるでしょう。個人的には、う〜ん、最後の見開きを見せられても…と思うのですが…彼女らの“ホントの姿”は見開きの手前の“出てる出てる”で十分に面白くかわいいと思いましたが…これも、このオチが面白いと思う読者さんもいるだろうと思うので、決して悪い訳ではありません。もうプロになっても全然問題ないし、この先いい作品も描くと思う。好きになる人も多いと思う。ただ、本人にとってこれがベストかというと「描いて行ったらこんなんなっちゃいました」は感じる。漫画にとって致命傷ではないけど、だからこそ面倒とも言える。相手の思考を延々と読んで潜って行って、無数の指し手の中から、自分にしかない筋を見極めて浮上してくる点で、個人的に将棋の棋士と漫画家はどこか手順的に似ているような気がしていますが、最大の違いは将棋は自覚の中で道筋を読む物であり、漫画は無自覚と自覚の狭間で数少ない突破口を見つける物だと思っています。これは本人にしか解らない事ですが、これが「今の自分では一番ベストな物です」と胸を張れる物なら買います。「何となくこんな感じになってしまいましたので…」であれば、もっと自分の魅力に自信を持って背伸びしないで、自覚的に、基本的な漫画的解りやすい展開に寄せて行くのも作者さんにとっては一つのチャレンジかと思います。
■山本おさむ先生
やはり“女子会”だけで終わらず、変身・アクションまでもって行ってほしいところ。それが読む側の欲というものです。“女子会”の途中に怪獣とのアクションを入れて“女子会”で締めるというのが常套的な構成でしょう。絵も上手だし、とぼけた味もいいので、前半をもっと短くし、コマをやたらと大ゴマを取らないようにしてメリハリを付け、後半に力を注ぐようにすればグンと良くなります。
■黒丸先生
今回の候補作の中ではダントツに絵がうまいですね。細部まで丁寧で、女の子も皆かなりかわいい。すごく良いと思います。最近よくある“漫画家目指してる主人公”モノかと思ったら、それがドンドン覆されていくのは面白かった。オチはちょっと弱いし、展開も起伏や鋭さに欠けるけど、まあひとまずそれはいいかと思ってしまうくらい超エンタメしていて気持ち良かったです。ネタ自体はよくあるタイプなので、物語作りの腕や演出技術はかなり磨かなきゃいけないとは思いますが、切れ味が上がればこのネタでもう1、2本できるんじゃないかな。私はマリエちゃん推しです。
■乃木坂太郎先生
絵が洗練されてて非常に上手いですね! 美少女戦士3人の描き分けも見事。女子会のグダグダ感がメインなんでしょうが、今一つ生々しさに欠ける感じです。ありがちな会話の表面を撫でてる感じ。オチがありがちすぎるので、グダグダ感をもっと膨らませないと読後感があっさりしすぎです。一方的な印象で申し訳ないのですが、画風が端正に完成されすぎてて、破天荒な部分を取り入れようと苦労しているなぁと感じました。

入選

『フリフリ』友安邦太郎(東京都・27歳)

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■高橋しん先生
審査員として、本来、大きな点はつけられないかもしれない。でも私はこの二人が好きです。予想通りの展開に予想通りの結末。比喩ではなく地味で冴えない特別優しくなければ冷たくもない。でも、この二人を使って「読んでちょっとよかったな」って漫画を描けって言われたら、誰にでも描ける漫画ではないと感じます。思った以上に、きちんと市井の人の生活を見ている人にしか描けないのではないでしょうか? 個人的には、最後に華子さんがワンピースを着て照れながら微笑む全身の大ゴマを見たかったな。雨上がりの、安物のレースのカーテン越しの逆光でも、たとえ背中のジッパーは閉まってなくても、きっととても可愛かったと思う。予想通りの展開で予想通りの結末に予想通りの二人。これで今すぐ人を少しだけいい気持ちにさせてあげてください。点数は低くつけるべきかもしれませんが、私はこの二人が好きです。
■山本おさむ先生
短編らしい小品でよくまとまっているのだが、アイデア・工夫が足りない。男のキャラ(フリーターでゲーム好きでいいのだが)と行動をもう少し粘り強く考えてみる必要があるのではないか。好きなゲームを売り払うところからラッピング話が足りないというところまでをドラマ仕立てに盛り上げるという発想が欲しい。それがないので、淡々と一本調子になっている。その辺りを改善出来れば、絵にも元気が出てくるのだが……
■黒丸先生
あるある、というお話ですね。ストーリーは何も破綻していない。矛盾もしていない。でもなぜか、心に引っかかってこない…。おそらくこれは、単純に“ドラマ量”不足しているのだろうと思います。一緒に暮らす彼氏との関係が成熟してしまい、新鮮味を失った主人公のモヤモヤした気持ちはよく理解できます。彼氏が彼女に気を遣うことを忘れがちになる光景も、現実によくある光景。でも、描かれているのがそれだけなのです。これが友達の話なら「わかるわかる」とうなずきながら聞けますが、この二人は読者にとっては赤の他人。読者に感情移入させ、さらに「なんか好き」と思わせるためには、漫画のキャラクターらしい何か“もう一つ”が必要だと思います。ストーリーにおいては、ゲームを売るまでの彼氏の心の機微が描かれていないので、ただひたすら彼女の一人相撲を見た感じでした。“二人ともフリーターである”という設定が活かしきれていなかったのも残念だったかな。出だし2ページで、男女どちらが主人公なのかが分からなかったのも惜しい。出だしは大事ですよ。
■乃木坂太郎先生
生活感に溢れた画面はすごくいいと思います。臭いも伝わってくる感じ。年齢設定に違和感。せいぜい30と28くらいまでのカップルの話ですよね? 37と35でこの生活はただの地獄ですよ。お伽話としても飲み込めない感じです。個人的には男がすごく狡猾な印象です。対して、女はあり得ないほど頭が悪い。表面的には男がバカで純。女が少しだけ現状を認識しているという描かれ方ですが、真逆に受け取りました。ダメ男のためのファンタジーなんでしょうね、この作品は。ただ、この閉じた世界にはモヤモヤしたものしか残りませんでした。

佳作

『工場ラプソディ』大石実(東京都・26歳)

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■高橋しん先生
まだ漫画の形になっていませんが、伸びるんじゃないでしょうか。人々の気持ちを慣れない筆先でコマごとに何度も何度も、自分の今の力で表そう、解ってもらおうと試みているように感じました。信じて託してぶつかれる、いい担当さんに出会えるといいなと思います。余談ですが、主人公の鼻の傷はどこについたのでしょうか? 1ページ目の大ゴマでぱっくり割れたと言っているのですが、あとで絆創膏の貼られた所には傷が見当たらなくて…板金で切ったのだから鼻の内側ではなさそうだし…。最初に気になったけど小さな事だとスルーしてたのですが、最後のエンディングでまた出てきたので、作者さんにとって大事な事なんだなと思ったので、大切な事ならちゃんと解るように描いたらいいなと。余談ついでに、金本さんのもらった大切な花束が途中適当なぐるぐるで描いてあるのは可哀想。主人公を大きく突き動かす恩人なのだから、作者さんもきちんと敬意を表すべきでは? 私ならと言う意味で、ホントに余談ですが。
■山本おさむ先生
「漫画で一発逆転を狙う主人公」「同僚から金を借りまくって、バックれる五郎」「引退する老指導員」「工場内でのいじめ」等々、面白いストーリーになりそうな材料が揃っているのに、なぜそうならないのだろう。主人公が漫画を描いてるシーンが面白くない。五郎はなぜ借金するの? 主人公はなぜ大金を簡単に貸すの? 五郎は金を何に使ったの? なぜ返せるの? 老指導員になぜ主人公は突然共感するの?――等々、作者はよく考えて読者に伝えるようにしてください。
■黒丸先生
アツいものはすごく感じるんですが、色んな意味で整理不足な気がしました。まずは登場人物。数が多い上にビジュアル的に描き分けができておらず、描き込みの多さも相まって、前半はかなり読みづらかったです。キャラクターの顔立ちが分からないほどの描き込みの多さは個性の一つと言えるかもしれませんが、後半の整理された絵の方がいいと思いました。ストーリーにも同じことが言えて、細々としたエピソードを散りばめた構成のためか、いつまでたっても本流が見えません。読み手が物語を把握できないまま進んでいき、クライマックスに突入するまでにこちらの準備が整わない感覚がありました。こういう細かいエピソードを散りばめて物語の輪郭をとるという手法は、ストーリー作りにおいて大変高度で難易度の高い技術です。それに挑戦しようという意欲は素晴らしいのですが、そうであるなら、もっとテーマは明確に鋭く設定しなくてはならないし、エピソード選びも細心の注意を払い、緻密にやらなくてはなりません。核となるテーマがぼんやりとしているので、それを表現するエピソードをどれだけ核に貼り付けても、やはりぼんやりとした形にしかならない。そういった印象を受ける作品でした。
■乃木坂太郎先生
人物の描線やコマ割りに迫力があっていいですね。この“太い”感じは長所だと思います。一方、もっと丁寧に描写して欲しい部分も多いです。時間差で「なんとも思ってねぇよ」と答えるシーンや新人賞に落ちるシーンなど(ここ、分かりづらいです。どのくらいの賞を期待していて、結果がどうだったのか、もっとはっきり読者に伝えて欲しい)。あと主人公がマンガにかける情熱の度合いが分かりません。夢を追いかける生き方を選んだ事は伝わりますが、肝心の夢がぼんやりしてるので、ラストも主人公の自己陶酔っぽく見えてしまいました。あと、キャラが全員ゴリラ系の顔なので、見分けづらいです。もっとバリエーションを!

佳作

『すみれの花咲くガールズ』丸山古香(東京都・28歳)

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■高橋しん先生
人をジンとさせる勘所は分かっている人で、とてもいいシーンがたくさんあります。ただ、照れと、外しのバランスが悪いように思います。ストレートに言うと、読者さんが照れてまっすぐ受け取ってもらえない時にうまく伝える為の、“外しの演出”を読者さんが感動したがってる時にも使ってくる。読者さんを照れさせないでうまく伝えることは大事。でも作者が照れた物は何百ページ描いても読者さんには伝わりません。読者さんは漫画を読む時には文字通り本に真っすぐ向かい合ってくださっています。その気持ちを受け取り、答える思いがなければ。それが仕事です。ここだけはどうしても伝えたいと信じた物は、たとえ読者さんからどんな反応で受け止められようとも、真っすぐ描く以外にはないのです。その為に信じられないくらいの苦労をして漫画を描くのですから。そこを真っすぐ受け取って頂けるように、他の部分でどれほど読者さんの気持ちを作ってこられるか。これがストーリーです。ストーリーを書く為に漫画があるのではなく、伝えたいことを描く為にストーリーがあるんです。最初にどうしてもこれを描きたいと思った時の気持ちを忘れてはいけません。そして、そのためなら他の事は投げ捨ててしまっていいと思えるほどの覚悟と勇気とプライドも、やはり忘れてはいけません。
■山本おさむ先生
珍しい題材で明るい色調でいいのだが、これを過不足なく描こうとすれば『しこふんじゃった』や『スウィングガールズ』のように映画一本分の長さが必要だろう。漫画だと200ページくらい必要だが、それを本作は46ページでやろうとした。そのためには、やはり随所に無理が生じてしまった。題材とページ数の関係は本当に難しい。もう一度短編に相応しい題材を考えて挑戦してみてください。絵ももっと完成度を高める努力を。
■黒丸先生
既存の劇団を題材にした投稿漫画というのは、けっこう珍しいかもしれませんね。その題材選びの善し悪しは置いておいて、宝塚に対する愛や尊敬は作品全体から溢れていました。題材に対する愛は、大変重要な要素です。最初読み始めたときはギャグ漫画なのかスポ根なのか掴みづらかったですが、これはおそらくスポ根ですよね。私がこの作品で大きなドラマ性を感じたのは主人公の宇佐美ではなく、彼女を指導する梶本の方でした。舞台で映える高身長を持った宇佐美は、その時点ですでに「持っている者」です。しかし、梶本は「持たざる者」なのです。私がこの作品で一番はっとしたセリフは、梶本の「男は宝塚の男役にはなれない」という言葉でした。さらっと書いてしまっていましたが、これこそ最もドラマ性を感じる言葉です。主人公が自分の持っている財産に価値を見出していく過程で、梶本との関係や絆は、もっと大きく描けたのではないかと思います。正直、他の部員のドラマはすっ飛ばしてもいいくらいです。漫画において読者が一番関心を持つのは、やはり登場人物同士の関係です。照れず、ギャグに逃げずに、一度真正面から描いてみたらどうでしょうか。きっと、それができる作者さんだと思います。
■乃木坂太郎先生
宝塚の男役という題材はとても面白いと思います。無難にワクワクさせる作りにはなってるかな、とは思うのですが、どうしても気になる点が一つ。それは真由の男役としての完成形を最初に見せてしまってる事です。そして扉と同じ絵がクライマックスで、それ以上の事が何も起きない事。予告編でクライマックスを見せてしまった映画のように味気ないです。冒頭で男役としてのビジュアルを見せるなら、真由が男としてどう演技し、キメを作り、観客を魅了するかを描かなければ。髪を切る事=男役ではないはず。非常にもったいないです。41ページ目のあとに、もう2ページ描き足すべきですよ。

佳作

『triad』吉田薫(東京都・27歳)

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■高橋しん先生
難しい事に挑戦しましたね。その気持ちは買います。おそらく、この漫画で作者さんが表現したい事は解るつもりです。“解る”を“この漫画読んでよかった”に変えるには足りない物が沢山ありそうです。 思っている事とやりたい事、やれると思っている事、そして、出来る事。漫画家にとって大事な事はいずれかの要素を下げることで調和を狙わないこと。何かを突出させて力で読者さんをねじ伏せるか、伸ばした要素で足りない要素にハーモニーをもたらすかです。人の顔を完璧に調和のとれたデッサンにすることに意味はない。なぜかと言うと人の顔自体がいびつであり、理屈ではない親しみや感情はそこから生まれるからです。完璧な漫画も漫画家もストーリーもないけど、同じように完璧ではないたくさんの人の心に届きます。
■山本おさむ先生
章立てして、三人の登場人物について詳しく描いてみてるのはいいが、さて、これからというところで終わってしまった。これは本来、ストーリーを作るために作者がノートに書いておく“メモ”に相当するもので、これにいろいろな工夫を加えてストーリーにするのです。また、バンドものは必ず最後にいい演奏をするのが定番だが、これもそろそろ考え直したほうがいい。
■黒丸先生
うーん、これはけっこう好きですね。面白かったです。音楽漫画って、最も自己中心的な表現が必要なジャンルですよね。何しろ絵に描けない“音”というものを、読者に絵で伝えなければならないのですから。そこで必要なのは作者のセンスなわけですが、作者が冷静すぎても駄目、ノリすぎていても駄目という、本当に難しい題材です。連載作品であればキャラクターのバックグラウンドをきちんと描く事によって、演奏シーンにも感情移入させやすくする事も出来るのですが、これは読切。キャラの背景を描くにも限界があります。その点、この作品は構成をうまく工夫して、バンドメンバー全員の事情を描き上げていました。キャラクター3人の個性が強く、エピソード同士の絡め方もうまい。読んでいて、「なるほどこうくるか」「あちゃー、そこ聞いちゃったかあ」などとついつい反応してしまいました。ラストの音符の使い方までしっかりと“音楽漫画”でした。漫画の題材と、構成・エピソード選びがきっちりマッチした良作だと思います。キャラクターの絵はなかなかきちんと描けているので、あとは頭身に注意して、関節部分をやわらかく描いてみてください。よりかっこいい絵を追求してほしいと思います。
■乃木坂太郎先生
3人の私生活のわだかまりが、ライブで浄化されるという狙いは悪くないです。ただ一人一人の物語が薄く、モノローグで自己紹介してるだけになっています。ただ読まされているだけという感じです。ラストも読者には聞こえない“和音”に頼りすぎる印象。物語の中の3人は共感し合っているのでしょうが、読者の気持ちは、むしろどんどん冷めていきますよ、こういう演出では。このクライマックスを感覚で共有してほしいなら、前半の3人のエピソードは、キャラごとに別人が描いているのかと思うくらい画面、芝居、テンションなど表現を際立たせるべきだと思います。

佳作

『コーヒー・カンタータ』ミカ村良美(神奈川県・21歳)

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■高橋しん先生
本来、人の形や表情が自然に描ける絵がうまい人なのに、丁寧に描こうとしないのはもったいないです。下手で一生懸命描いてもだめな人も、描いているうちに当たり前に上達してきます。でも丁寧に描く気がない人は、いつまでももったいないままです。展開やストーリーについても、伝えたい事を漫画として読者さんに伝えるため、もっと丁寧に描かないともったいないと感じます。自分の都合のいいように、物語の根幹をなすような大事な登場人物を単純化して矮小化して、結論を導き出したように見せかけるのは、逃げです。人は対等に渡り合うから勝負は面白くなります。一方を高める為に一方を作者という神の小手先で落としたとたん、負けるのは誰でもありません。この小さな世界の神であるあなたです。そうしたい誘惑に打ち勝って、あなたが生み出した二人に母性を持って責任を持ち、ひいきせず、創作によって高め合う事で作品を生かしてください。その為に漫画というフィクションはあり、漫画家という職業はあります。
■山本おさむ先生
主人公の論理が内向きで自ら完結してしまうのが物足りない。正人や父親や主人公がどういう人物なのか、読後に印象が残らない。主人公が男を殴った時、また「別れよう」と切り出した時、もっと場面を続けて描いてくれれば人物像がはっきりすると思うのだが、作者はなぜかそこをカットしてしまう。他者を描くという事にも力を注いでほしいところだ。
■黒丸先生
親子やカップルの間で起きがちな感情のもつれを、コーヒーとバッハに絡めて描いた作品ですね。題材選びがおしゃれで、うまくやれば作品に良いムードが出たと思います。ただそんな理想に対して、絵が雑すぎます。ラフな味があるわけではなく、ただ雑。特に主人公を魅力的に描こうという努力が全く見えないのが残念でした。コマごとの構図はとても工夫があり、心情を描写しようとよく意識しているのに、これでは活かせません。個人的には、周囲の人間をやたら醜く描くのはなぜなのかが不思議でした。あと、これは物語のテーマにまつわることなので人それぞれだとは思うのですが…、私は「“人を支えたい”と思うことって、“人の上に立ちたい”ということとイコールなのかなあ?」と思ってしまいました。もちろん「人を支えたい」と言いながら、実際にはただ「恩を着せようとしている」という人もいます。作者はそういうことを描きたかったのかもしれませんが、私には主人公がそういうタイプの人には見えませんでした。私の友達だったら、「あんたよくやってるよ」と言いたくなるくらいです。母親と父親の関係性などうなずける部分もありましたが、キモとなる主人公たちの話は私にはピンとこず、したがって別れのシーンも唐突で、腑に落ちませんでした。
■乃木坂太郎先生
『コーヒー・カンタータ』におけるバッハと娘、美羽の父と弟・鉄雄、美羽の父と美羽、美羽と正人と対比される人間関係が四軸もあって散漫な印象です。父と弟のエピソードを削って、父と美羽の関係をもっと丁寧に描いた方が分かり易くなったのでは? 美羽が父に反発する気持ちがすんなり伝わってきません。正人が「お父さんと違って夢を追ってた」と、いきなり言われてもそうなの?と、戸惑ってしまいました。厳しい事を書きましたが、繊細な心理の変化を描こうとしている点はセンスを感じます。年齢を重ねるごとに深みのある作品が描ける作者かもしれません。今後に期待します!