第73回

新人コミック大賞 発表

青年部門


入選

『となりの芝生』

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■高橋しん先生
面白い!漫画になっていて、キャラクターたちがとても魅力的に生きています。バカだけど。最初、解りにくく取っ付きにくい「漫画的な」設定も、うまく丁寧に読者に伝えて、効果的にストーリーを展開させ盛り上げ、漫画に力と個性を与えるのに成功しています。絵柄も最初は取っ付きにくさを感じますが、読み進めるうちにどんどん可愛く、好きになっていきました。今後は、このネタ以外の物でこの面白みを出して、何作も量産していけるか。個人的にはその先も個性的で魅力的な作品を作者さん達には描ける気がしています。気負いすぎず、自分たちの基本を忘れず頑張って下さい。
■山本おさむ氏先生
思った事を口にしてしまうという設定は、きっと面白いストーリーになる可能性があったと思う。ただ単に“話が長い”とか“バーコード”とか言ってるだけなので、内容が深まっていかない。もっと主人公達の内面の奥底に降りていくような展開が望まれる。
■黒丸先生
これは難しい作品ですねえ。特に破綻しているところもないし、絵も達者。でも、なんだか足りない。強いて言うなら作品全体の色気……面白味でしょうか。ストーリーはシンプルで特にヒネリもなく、視点が浅く一面的すぎる気がします。思ったことを言っちゃうという病気の設定はいいのですが、描かれている出来事が、読者が「そんな病気になったらこんなことが起きるだろうな」とすぐ想像できてしまうレベルのことなんですよね。彼女が「うらやましい」と思う理由も、読者の想像の範囲だと思います。作者なら、読者の想像を超えていかなければ。すぐに思いつくような事で物語を編んでも驚いてくれません。タイトル選びも、あまりにもテーマに直球すぎかな。物語も絵もどことなく遠慮的というか、全てが大人しい印象の作品です。もう少し何か、どの方向にでもいいから突き抜けがあったらなあと思いました。
■乃木坂太郎先生
面白かったです。前田の髪が3か月で伸びてるところとか、地味にツボでおかしかった。ボケっぽい心音が前田に突っ込むのも、彼女のキャラの範囲内なのでいい感じ。ボケに何でも突っ込み入れればおかしいだろう?みたいな応募作も多いので。二人の合作のようですが、この微妙な感じを維持できるのか不安です。次回作に期待します。

佳作

『オトシゴロ』はるお(鹿児島県・24歳)

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■高橋しん先生
これは…思いっ切り素直すぎる作品。この先出会った編集さんと一緒に作品を作ることでまるっきり前向きに化けてほしい(今担当編集さんが居るなら編集さんも思いっきり化けさせてあげてほしい)。作品の完成度と言う意味では、私は高い点を付けられませんが、可能性と言う意味では、しっかり点を付けてあげたい作者さん。ストーリー漫画と四コマ漫画の融合は、実は私も10年以上前に四コマ誌で連載をする際に試してみた事が有りまして、また最近の四コマ誌の主流も少しスタイルは違いますが、やはりストーリー風の展開が主流です。そう言った意味ではチャレンジと取るか、ごく普通の演出と取るかは微妙なのですが、問題は肝心のストーリーが、この演出によって効果的に活かされていない事です。効果のない物、伝わらない物をチャレンジしても、それはチャレンジとは言いません。まず伝えたい物を、より強く、愛情を持って、読む人に伝えたいと願うその力が、生み出すその工夫が、意思が、本当のチャレンジです。新人さんの陥りがちな事ですが、これから編集さんと沢山の作品を読者さんに向けて、それこそチャレンジしていく事で、いくらでも改善されていきますので、未来に期待して加点のみの採点にしてあります。大きな作品を描く人に化ける可能性を私は感じます。どうぞ、今の形にこだわらず、丁寧で、素直で、前を向く視線を、どうか伸ばしていって下さい。
■山本おさむ氏先生
一幕もの、同じコマ割り、会話だけでの進展、場面はあるがストーリーはない。作者がなぜこのようなスタイルを採用したのか。その必然性、効果があまり感じられない。敢えて日常の小さな場面を切り取ろうとするなら、その背景にあるものを作者は凝縮して作中に塗り込めてほしいものだ。
■黒丸先生
絵がいいですね。うまくて丁寧でさわやか。構図のセンスもかなりあると思います。キャラクターが男女共に魅力的で(脇キャラと見分けがつかない時もありますが)、素直になれない幼さも可愛いですね。それ故に強く感じてしまったのは、「なぜこのコマ割にしたのか?」。確かに昨今ではあまり使われない技法ではありますが、その個性は特に生きてはいない。ストーリーにヒネリがないのですが、その工夫の無さをコマ割だけでカバーしようとしているように思えました。今のストーリーにもう一ヒネリ加え、さらにコマ割を適切な演出によって工夫(アレンジ)した場合、現状よりもっと面白くなるだろうという確信があります。「それでは他の作品と同じになってしまう」と思われるかもしれませんが、この作者さんはむしろ、小手先の技巧に頼らなくても十分勝負ができる人だろうと思います。読者は技巧では感動しません。もっと「面白く」できるはずです。がんばって下さい。
■乃木坂太郎先生
絵が上手いですね。日常系4コマの手法は、派手な演出が出来ない分コマの中での芝居が重要なのですが、そこはクリア出来てると思います。なんというか、ビデオカメラで同級生の恋愛を撮ってる感覚ですね。心情描写のモノローグは一切ないのも演出意図がはっきりしてていいです。一点、同級生たちの描き分けが不十分かな、と。演出上説明もなくフレームに入ってくるので、主人公たちとはもう少し外見上の違いをはっきりさせた方が良かったのでは?

佳作

『ガチフェイク』ナリタユウキ(京都府・29歳)

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■高橋しん先生
絵が魅力的。これから何本も何本も作品を描いていけば、この絵は生きてくると思います。今は、うまいのにヘタとザツが同居していますが、魅力の部分が生きてくると思います。ストーリーは、なぜか新人さんはこのテーマや展開をみんな描いてきますね?実感なら問題ありませんが、どこか漫画を読んで漫画を描いている感じ。最初の2〜3ページでこれから描かれる事が大体解ったし、事実その通りだったのはあまり将来に期待したい新人の作品としては褒められた事ではありません。しかし、所々にいい言葉や、シーンがちゃんと描かれていて、おそらく作者さん独自の魅力や本質や心は、ここにあるのだと思うと、少し明るさが見えてきてほっとしました。今後の作品で、絵の魅力を含めてそれがもっと生きて、前に出てくる事を期待しています。
■山本おさむ氏先生
プロレスファンをやめたというのは人物設定であって、アイデアではない。その理由やエピソードが面白ければ、アイデアになり得る。いじめられてる友人を助けて相手をやっつけるというのも、ただのパターンであってアイデアでもストーリーでもない。自分が思いついた事が読者にとって面白いのかどうか、自問自答してから作画に入った方が良い。
■黒丸先生
作者の愛が詰まった作品ですね。こういうエネルギーのある作品は好きです。私はプロレスにそこまで興味がある方ではないですが、そういう人間でも楽しめるような熱意と工夫がありました。ちょいちょい挟まれる小さなネタやセリフ回しにセンスがあり、全体を重過ぎない良いバランスにしていると思います。ここぞという重要なシーンの構図はダイナミックでかっこいいので、それに至るシーンはもう少し、ロングショットを入れたり説明コマを入れたりしてみて整理した方がいいですね。そうすれば「どういう状況?」という疑問や雑念にとらわれず、読者が話に入り込めると思います。同じ理由で、脇キャラの描き分けももう少し必要かな。ラストのタカッさんの「オカちゃんの友達でしょ?」というセリフは刺さりますね。個人的には、あそこで主人公の表情をちゃんと見たかったです。タカッさんが強いのかそうでないのか、最後までよく分からないところも気になりました。が、総じて最後まで楽しく読める作品でした。
■乃木坂太郎先生
特にマイナスポイントもないのですが、全てが予定調和すぎて既視感が強く印象に残らないです。リア充になるために捨ててきたものを取り戻す話は、賞に送られてくる作品の定番なので、もっと独自性がないとつらいです。正直言って主人公たちより、自主退学を選んだジュンのその後のほうが気になっちゃったくらいですよ。絵や構成など、マンガの地力の部分はすごくありそうな作者なのでもったいないです。29 歳という年齢を考えればもっと作品に自分の体臭を出していてもおかしくないはず。次作は全裸で描くように。

佳作

『いつか見た青い空』山地拓朗(千葉県・25歳)

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■高橋しん先生
これは、漫画ではありませんね。一つの記憶です。奇をてらわずに丁寧に丁寧に何コマも何ページも描き続けた事で、作品の形まで辿り着きました。とても根気がいる大変な作業ではなかったかと想像します。私ならば漫画として足りない部分を、この大切な記憶のカギである「香り」というアイテムについてもう一匙二匙、加えたりしてしまいたくなると思いますが、これは足りる足りないの問題ではなく作家の個性の問題とも思えます。今のこの形が限りなくベターに近い読者さんも沢山おられるでしょうね。テーマや舞台を変えて今後も様々な人々の記憶を描いて行く事で、その答えは自ずと出てくると思います。頑張って下さい。
■山本おさむ氏先生
同じ境遇の二人が心を通わせるというだけのストーリーだが、設定・エピソード共にパターン通りすぎて、面白味に欠ける。作者の一方的な思い込みだけで、各シーンが描かれていると感じる。“描きたい事”があるのはいいが、“どう描くか”についてもっと考えよう。
■黒丸先生
直球勝負の“いい話”ですね。画力のクオリティが高く、新しさは無いものの、まっすぐであたたかい絵だと思います。ただこの作品に漫画的な「面白み」があるかと聞かれると、少し難しいところ。言い方は悪いかもしれませんが、新聞の“良い話投書欄”に載っているような話だなあと思ってしまいました。文章で読んでも「いい話だねえ」と言われるような作品ではなく、「コレは漫画じゃなきゃ面白さはわからないよ」と言われるような作品。それが漫画的な「面白み」がある作品なのではないかと思います。そういった意味で、ラスト1Pには漫画的なユーモアがありました。こういった表情が描けるのであれば、幼少時の話はもっと楽しく面白く、それゆえに哀しさをいっそう際立たせて描けたのではないでしょうか。物事を正面からとらえ、きちんと描こうとするのは良いことですが、時には視点を変えてみたり、ユーモアを交えてみたり。そうすることによって逆に、伝えたいことがより多くの人に、より強い魅力をもって伝わることもあると思います。
■乃木坂太郎先生
力作だなあという印象。丁寧な作画で昭和初期を真正面から逃げずに描いているのには感服です。少々気になったのは3ページ目の最後のコマ。主人公が見てる窓の外が真っ白ですよね。ここはやはり主人公が何を見ているのか描いてほしかったです。何も見ていないのだろうけど、見ている風景を見たかった。何気ないところだけど主人公の心情に読者を寄り添わせるには大事なコマだと思います。導入としての現代パートは不必要かもと思いました。あと、老人をしっかり描いているのはプラス印象。芸者の見分けがつかないのはマイナス印象でした。

佳作

『みっくすじゅうす』山崎コータ(東京都・28歳)

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■高橋しん先生
主人公、すごくかっこいい!この作品を評価するって、そういう問題じゃないっていうか、ちょっと無理……と言うわけにはいかないのでしますが、もうプロになっちゃったらどうでしょう。アマチュアのままだと生きない、でもプロとして何作も積み重ねていくと、いく事が出来れば、存在や才能がとても生きてくると思うんです。好きな人は絶対この作品好きだと思うんです。私もわりと好きなんですけどね。もう少し真面目に評価しますが、もっと細かい所の絵のクオリティーを上げていかないと、この系統の作品は力が弱くなると思います。本作をたくさんの読者さんに見せたとして、デッサンや絵が個性的に「いい意味で」崩れてると思ってもらえる所より、ヘタもしくは雑と思われる割合が今は高いのではないでしょうか? 大事な小道具である双眼鏡を始め、ほとんどの物が現実の資料をあたらずに作者さんの記憶・想像で描かれているのも、手や足や体のデッサンが未熟なのも、この作風を活かすには作者さんの姿勢や気持ちが足りていないと感じています。アブノーマルは徹底したノーマルやリアルを深めていく事で引き立ちます。アマチュア然とした中途半端なアブノーマルはおふざけで終わってしまうかも知れません。せっかくここまで頑張って描き込んで苦労して漫画を描くのだから、今後、もう一歩高いレベルの表現を目指して頑張って下さい。
■山本おさむ氏先生
奇妙な味は出ている。「のぞき」や「背徳」に悦びを感じる主人公が、もっと奇妙なものに飲み込まれるという展開だが、その奇妙なものが何だったのかについて作者の思考が煮詰められていない。そこが出来れば、ぐっとグレードアップするのに……と思う。背景や人物の描き方に独自性が出ているのは良い事。
■黒丸先生
最初に抱いた感想は「うわあなんだこりゃ」。ヤバくて怖くて、でもなぜか大爆笑してしまいました。好みはかなり分かれるでしょうし、すっごいクセがあるんですけど、私は…コレ嫌いじゃないです。というかむしろかなりツボりました。絵も個性的で新鮮で、イイ感じですね。体のポーズとか、ちょっと真似できないようなぶっとび方。セリフの一つ一つが面白くて、ブラックなんだけどなぜか楽しい。無駄ゴマも無くて、相当センスのある作者さんだと感じました。こういう人を「鬼才」って言うのかな。面白かったです。他の作品も読んでみたいなあ。どんなのが出てくるんでしょう…。
■乃木坂太郎先生
高橋葉介先生的な怪奇譚ですね。新コミには珍しいエロ系なのはグッド。ただエロが背徳なのは当たり前ですよね? 幻想的な黒い画面は素敵ですが、どうしてもビアズリーやクラークのようなヌーボー朝の画家と比べちゃうので分が悪いです。ヒロイン・えぐりには食べられちゃいたいと思う程の魅力は感じませんでした。

佳作

『穴掘る2人』野村さいよう(兵庫県・22歳)

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■高橋しん先生
なんだこれ?でも面白い。漫画の形にはなっていないけど、どこかギリギリで作品になっていますね。今はまだ、「進行用のモノローグ」に頼って個々のシーンを繋げているだけなので、それを「漫画として読者さんに伝えていく」ための構成の仕方を、自分なりに掴んでいきましょう。今はまだ道は険しいけど、見つけた時は大きく作品が化けそうな気がしています。もう一つ、主人公格以外のキャラクターがおざなりで、必要なので頭で作った的な感じ。主人公はその作者や作品独自の空気を作るために、サブやモブキャラはその空気を読者さんにとってのリアルに結びつけるために居ます。おざなりにしたらその分だけ、主人公も死にます。今はまだ、作者さんの頭の中は主人公の中心10メートル以外の世界は少しもやがかかったような気持ちで漫画を描いているように思います。そのもやを、たくさんの人や物事に触れる経験や、映画や小説やドキュメンタリーや、様々な人の生きているシーンに触れて、晴らしていって下さい。次回作を楽しみにしています。
■山本おさむ氏先生
ストーリーに無理がある。死体を前にして問い詰める事もなく、先延ばしにしてしまうのが不自然だ。また、タイムカプセルもとってつけたような感じがする。このようなストーリーを通して読者に何を伝えたいのか、じっくり考えてから着手した方が良い。
■黒丸先生
言いたいことはあるんだろうなあ、と感じるような作品。しかしそれを伝えるためのストーリー、エピソード、構図、絵が絞りきれておらず、どうにも散漫な印象を受けました。女の子がかわいらしく、絵柄は悪くないと思います。しかし絵やセリフ回しなど、全体的にテンションが一定でない。特に絵は、たくさんの作家の色んな絵を集めてきて、それぞれの状況に合わせて”配置した”かのよう。コマによって受ける印象がバラバラで、大事なところでキャラクターの表情を描かなかったり深刻なはずのシーンでギャグ絵になったり、もったいないと感じるコマも多かったです。主人公は、どうして姉に「殺したのか殺してないのか」を問いたださなかったのかな。ここでも絵はギャグっぽくなっていましたが、ストーリー的にこの漫画はシリアスな作品のはずだし、そうであれば主人公は姉が泣こうが喚こうが状況を問いただすはず。”事の真相を主人公に知らせない”というストーリーが必要なら、ここはもっと説得力のある展開を作るべきだったと思います。オチや姉の名前は何やら意味ありげですが、ちょっと不親切すぎ。読者に深読みを望むなら、作者は読者にそうさせるだけの『面白さ』を提供しなければいけません。ネタそのものには魅力があったと思うので、今後はもっと自分でネタを“叩いて”、作品の純度を上げていってほしいと思います。
■乃木坂太郎先生
姉の危うさと幼さが色気を醸し出していてドキドキしました。サスペンスを演出するために、家族の喪失感を敢えて弱めに描いているのだろうけど、ドラマとしては薄まってしまってる印象です。ミスリードしてるサイコサスペンス方面に突っ走ったほうが面白かったのでは?人情ドラマよりそっち方面の才能がありそうです。最後に1ページ目のセリフがどっちのセリフかわかりづらいです。導入部は丁寧にわかりやすくを心がけてほしいです。