第74回

新人コミック大賞 発表

青年部門


大賞

『ヒトリシズカ』キリエ(福岡県・31歳/29歳)

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■花沢健吾先生
絵、内容ともうまい。雰囲気がある。絵のうまさで読めるが、内容が薄い感じがした。この雰囲気なので娘が存在しないのかなと思ったが、そうでもないようだ。次回は絵と内容がマッチする作品を作って欲しい。
■太田垣康男先生
沈んだ魅力を持つ絵柄は好感が持てる。感情を抑えたキャラクターを描けるのは武器だが、その分、押さえつけている感情が大きくないとただの陰気な奴、で終わってしまう。今作のような慰めを持つだけの主人公にはもったいない絵柄。
■浅野いにお先生
個性は弱いですが非常によく出来ていました。ストーリーは限られた要素を無駄なく配置し、展開も練られていて序盤から惹き込まれました。説明台詞も無く、会話の中で読者が状況を理解出来るようにしてあり、ミスリードを誘うような演出もしてある。読み切りのお手本のようでした。絵柄に関してもかなり完成されていて、繊細な線が平熱の低そうな物語と合っています。時折入る無言の「間」も効果的でした。男女問わずキャラクターの表情も良く、台詞が無くても間が持つ画力です。構図も工夫されているので、退屈になりがちな対話シーンも気になりませんでした。あとは掲載誌と読者層のマッチングだと思います。単行本になってしまえば関係ないと思いますが。
■石塚真一先生
短編映画を観てるような作品。ストーリーと人物の表情のシンクロが読みやすさに繋がっています。大ゴマも効果的です。読み切った感を読者に持たせる力があると思います。
■業田良家先生
綺麗な話の展開・ネーム・心理描写ともにプロのレベルにあると思う。絵も完成されていて表現も的確。個人的にも好きな絵だがイラストの味が強すぎて漫画として何作も読みたくなるかどうかが気になる。漫画とイラストの違いについてふと考えてしまった。それでもこの綺麗な話の作品に今回の最高点を付けたい。

入選

『刑事失格』福星英春(千葉県・31歳)

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■花沢健吾先生
面白いけど、もっと笑いを詰め込んで欲しかった。着地点が大人しいので、もっとぶっ壊してもよいかと思った。
■太田垣康男先生
ネームの力はあるが役者の演技力が足りないせいでシリアスとギャグの落差が伝わって来ない。顔芸が出来るキャラの絵を習得すれば大化けするかも。次回作に期待。
■浅野いにお先生
絵柄に古臭さを感じましたが面白かったです。じわじわ来ました。始めの数ページ、真面目に読んでいた自分をはり倒してやりたいです。ツッコミ不在のギャグなので、読み手自身が登場人物に心の中で突っ込んでいく過程が楽しかったです。「当たり判定厳し過ぎんだろ…」じゃねーだろと。刑事設定もちゃんと活かされていたので、作りも適当なようで丁寧です。ただ、ギャグは読み手の感性に左右されます。合う、合わないはどうにもなりません。時代の移り変わりも早いです。そんなシビアな環境下で手を変え品を変えこのクオリティのものがちゃんと量産出来るかが課題だと思います。がんばってください。
■石塚真一先生
あははは、です。丁寧な絵とシリアスな事件のウラに描かれる主人公の人間性に笑いました。いいじゃないですか!! 楽しくて。
■業田良家先生
真面目なストーリー漫画の絵でギャグをやる手法は好きだし、この作品もけっこう笑った。ネームのセンスはある。最後のオチをもっとひねってほしい。

入選

『石段をあがり』橋紺(京都府・22歳)

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■花沢健吾先生
自分の世界観を創る力があると思うが、もっと掘り下げて欲しかった。画力があるので、孤独感などもっと絵で表現して欲しい。キメゴマがあるとフックがあって良いかも。
■太田垣康男先生
架空の街、架空の時代、架空の人種を使って現代的な壊れた家庭事情を抽象的に描こうという意欲は良い。しかし、世界観の作り込みが甘いせいでリアリティが伝わらない。「石段の街」というイメージを読者に強烈に印象付ける風景画が欲しかった。
■浅野いにお先生
話はわかりやすく、コマ運びや構図に関しても全く問題なく読みやすいです。しかし技術はあるが特徴がない、という印象です。おそらくこのクオリティの作品をコンスタントに描き続ける事が出来ると思いますが、若い作者の方なので、もっと大胆になって更なる可能性を感じさせてください。もしこの作品のように行き場のない孤独な二人を描きたいのであれば、二人が抱える孤独をもっと執念深くしつこいくらいに描写してほしかった。舞台を外国にしたかったのであれば、もっと生活感やリアリティを。読者に作家として認識されるためには他の漫画家と被らない独自のこだわりを前面に出してください。読者に違和感を感じさせるくらいの「凄み」を出してください。あまりにもスルスルと読み進められてしまうのは勿体ない。
■石塚真一先生
ベタを効果的に使い、読ませる力があります。アングル、空間演出も上手い。線に躍動感があります。絵の気持ち良さとドラマのシンクロを高める余地はあるかと思いました。
■業田良家先生
確かな力量を感じた。クライマックスのシーン「私を見てくれる人がいなくなる」辺りで心にぐっときた。コマ割り・コマ運び・場面展開も巧く、人物の動作もちゃんと描けてる。作者はいろいろな話が描ける人ではないでしょうか。ただ意外な展開がなく、最後の締めくくりでもうひとつひねりが欲しい。もっといいアイディアを出せると思う。ちなみに主人公の髪の動きのある表現が好きだ。

入選

『フタゴのコ』寺山マル(埼玉県・28歳)

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■花沢健吾先生
ブスの描き方や、ブスに接する周りの人々の反応が定番。もう少しオリジナリティーがあると良い。絵は好感がもてるし、イヤミがないので良い。もっと独自の目線を育てて欲しい。
■太田垣康男先生
始めから結論ありき、で作られた物語だろう。ブスな姉の偏愛を過去を思い出す事ですんなり受け入れてしまう妹に自我を感じない。対立なしで和解してしまうのは妥協ではないか? 姉妹それぞれの葛藤にもっと迫って欲しかった。
■浅野いにお先生
読みやすかったです。話もまとまってました。絵柄はちょっとコントラストが強過ぎな印象ですが今時な感じがしていいと思います。女の子も可愛い。これは重要です。ただブスの描写が良くなかった。「外見はブスだが実は内面は…」ではなく内面もブスでは好感が持てない。むしろ性格は偏執的かつ横暴なので他人から見れば恐怖の対象でしかない。姉妹の間での絆はあるようですが、それはキャラ達の主観で自己完結してるだけなので、読者の共感ポイントにはなりません。それほどみんなブスに寛大ではありません。読者に愛されるキャラクター造形と性格付けを意識してください。オチのラブレターのくだりは単純ですがわかりやすく、ちゃんと読み終えた感が出るのでこういうのも大切だと思いました。
■石塚真一先生
描き分けの良さに、すっきり読み進められました。シンプル、かつストレスなく読める作品です。キャラクターの内側にもう一歩踏み込んだ話が読んでみたい。
■業田良家先生
繊細な描線で絵は巧いが、主人公の考えや感情が特殊すぎて共感できなかった。

入選

『女子高生は原始怪獣の夢をみるか?』
今泉太郎(神奈川県・28歳)

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■花沢健吾先生
何を描きたかったのか分からない。破壊を描きたいなら、もっと物語が破綻してもいいから情熱をぶつけるべき。中途半端になり、ボンヤリ終わってしまった感じがする。
■太田垣康男先生
絵本の様な怪獣の物語とリアルな女子高生の対比、という狙いは分かるが、それには画力、ストーリー共に徹底的なリアリティが必要。画力の限界が話作りの限界、と認識し、今の自分に合った物語を選ぼう。
■浅野いにお先生
面白かったです。雰囲気も好きでした。ストーリーのトンデモ展開も印象的で、なんか変な漫画読んじゃったな…と思わせただけで、作品として成功してると思いますが、なにより、人の暗部や業が描かれてるのが良かった。人物がちゃんと人間として感じられました。主人公は生き延びたほうが良かったかも…と個人的には思います。話に余韻が無くなってしまうので。そこらへんの判断はこういう漫画を描く作者の方ですから本人のリビドーに任せるべきかもしれませんが。これからもこのテンションと雰囲気を失わないでほしいです。ただ、内容に画力が追いついていません。コマ割りや構図も工夫の予知はまだまだあります。向かうべき絵柄の方向は見えているはずなので、絵の重さと迫力、写実性を伸ばしていってほしいです。街の破壊シーンを人物に寄り過ぎず、引きの風景を多用してスケール感を出せば、後半の展開がもっと壮大で読み応えのあるものになったかもしれません。
■石塚真一先生
心象風景と絵本のような怪獣の絵のオーバーラップは秀逸。シュールであるけれど、ラストの持って行き方は小説的で好感を持ちました。
■業田良家先生
妊娠した女子高生と怪獣の組み合わせにより、不幸な主人公の強烈な感情が伝わってきた。結末は主人公が死んでしまう必然性が感じられない。違う結末を考えてほしい。ちなみに、いつか私も怪獣漫画を一本描いてみたくなった(笑)。

佳作

『ひろしの話』相澤郁恵(宮城県・20歳)

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■花沢健吾先生
絵は非常に好き。説明不足。特に妖怪たちに手伝ってもらい、女子に復讐するくだりはよく分からなかった。キャラは良いので、別の話を読んでみたい。
■太田垣康男先生
可愛らしさと不気味さ、純粋と濁りが奇妙に入り混じった愛すべき作品。展開の早さもセリフ回しの巧みさでスムーズに読ませ、シンプルな絵でキャラクターの描き分けをする技量は素晴らしい。最後ホロリとさせられた。河童かわいいよ。
■浅野いにお先生
かっぱが可愛いです。セリフの端々に作者の若さが出ていて良かった。絵はつたなく安定感がありません。若い方なので今後上手くなる可能性はあると思います。フニャフニャとゆるい描線は魅力ですが、決してヘタウマに逃げず、基礎を磨いてください。演出に関してもまだ配慮が足らないところが多く、特に場面転換やキャラの立ち位置説明が足りないので、所々学校内のシーンで何が起きているのかわからないところがありました。主人公と河童の友情話は良かったのですが、中盤の事件があまりに適当。ゆるい世界観だからとはいえ、伏線や前触れもなく唐突に妖怪を呼び出してちゃんちゃん、という訳にはいきません。この世界観の中で人間と妖怪の距離感が全く不明です。ただでさえ河童という「非現実」が主軸のストーリーなのに、さらに「なんでもあり」にしてしまうのは勿体ないです。「事件」でストーリを無理に盛り上げたりしようとせず、キャラ達の何気ないやりとりを丹念にすくい取って、良い演出で見せてあげてください。序盤4ページ1 コマ目までは秀逸でした。
■石塚真一先生
楽しんで描いているところは好感。ひろしと河童の気持ちの部分をもう少し見たかったです。河童の唐突さと普通さには笑いました。
■業田良家先生
もっと丁寧に描けば絵心はありそうな気がするが、雑で手を抜き過ぎだ。

佳作

『ぼくの夢×きみの悪夢』カラシユニコ(東京都・29歳)

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■花沢健吾先生
題名をもう少し、物語をイメージしやすい方がいい。自分としては苦手な題材なのに、イヤミが感じられずに読めた。これは大切な作家性なので、伸ばして欲しいと思った。
■太田垣康男先生
エロチックな話を爽やかに読ませる感性は好感が持てる。物語の展開も先が気になる作りになっているが、ここから、という所で結末を用意出来なかったのは残念。あまりの中途半端な終りでページが抜けているのか?と疑った程。
■浅野いにお先生
変な漫画でした。真面目なんだか軽薄なんだかよくわからないキャラたちが楽しかった。淡白な絵柄も手伝って、乾いた空気感と独りよがりな独白も雰囲気に合っています。画力がまだまだ足りない印象があるので、今後よりポップで安定した絵柄を獲得してゆけば、更にこの空気感が映えるようになると思います。今回は不思議な三角関係を作るための静電気というモチーフでしたが、SF設定に頼らない話も見てみたいです。ラスト2ページがコマとセリフがぎゅうぎゅう詰めでちょっと窮屈でした。他の部分がのびのび描かれてただけに惜しい。一つ付け加えると、どんな作家の影響下にあるのかがなんとなくわかってしまう作風なので、その系譜としてカテゴライズされてもいいのであればこのままでも良いですが、嫌な場合は更なる個性の追求が必要かと思います。
■石塚真一先生
アップの絵に勢いを感じました。心象風景を追おうという姿勢も良いのですが、登場人物達の魅力が話を通して上がっていくと、さらに良かったかと。
■業田良家先生
静電気は女心か何かの比喩なのだろうか。最後まで分からなかった。比喩ではないにしても強烈な静電気にリアリティが感じられず共感できなかった。結末も「つづく」という感じなので残念。