第76回

新人コミック大賞 発表

青年部門


大賞

『ハッピーニューイヤー』むつき潤(兵庫県・22歳)

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■花沢健吾先生
総合的に素晴らしい。絵柄・ストーリー・キャラどれも良い。キャラの台詞も雰囲気が出ていて、ストーリー自体はオーソドックスだがそれを補う魅力がある。構成も読者の想像力に任せるところはスッパリ削っていてストレスがない。自分としてはこの少々粗い絵柄でも魅力的で好きだが、商業誌で成功を収めたいと思うのならもう少し綺麗な線を意識する必要があるのかもしれない。とにかく次回作や連載作品が楽しみな方です。
■太田垣康男先生
人物描写に愛嬌があり、薄汚れたダメ人間に対する情愛の深さに作家性を感じる。女子高生のカラコン、マスク、イヤホン。おじさんのメガネ、ハサミ、年賀状等の小道具の使い方も巧み。
■浅野いにお先生
素晴らしいです。素直にいち読者として引き込まれました。絵柄も雰囲気も読み手を選ばない「ちょうど良い」感じで作風が出来上がっています。ストーリーは簡潔にまとまっていて、ヒロインの女子高生はただ無愛想な可愛い女の子ではなく、フックになるアイテムが設定されている等、短篇の作り方をきっちり抑えてあるので、作者の方はよほど勉強したか勘の良い方なのでしょう。今回は中年男性の怨恨を中核にした物語でしたが、もっと平々凡々とした物語でも読ませる才能を持っていると思うので、僕は次回作にそういう作品を切望します。
■石塚真一先生
繊細な気持ちを絵で追う。そんな作品でした。「間」が有効に使われていて、気持ちを追いやすかった。絵も有機的で好印象です。上手いなあ……。
■業田良家先生
絵に程よい個性があり描線も魅力的だ。主人公のふたりがそれぞれ絶望的な状況のなかでかすかな希望を感じるラスト。読みきりの短編として完成度が高い。細かいディティールも自然で的確に描かれている。高い実力を感じる。

入選

『アンエレメント』安田佳澄(兵庫県・20歳)

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■花沢健吾先生
雰囲気は独自のものがあり良いが、ちょっと独りよがりな気がする。最初亡くなった彼氏が具現化しているのかと思った。あと主人公の涙袋?が本当に泣いてるのかよくわからない絵になっていた。絵で涙袋を表現するときは「老け顔」や「やつれた顔」と読者は認識してしまいがちです。主人公は失恋後なのでそれもありかと思いましたが、回想シーンでも涙袋があるので身体的特徴のようで、どうも腑に落ちませんでした。雰囲気を出すのは大切ですが、「雰囲気だけ漫画」にならないように気をつけたほうが良いです。
■太田垣康男先生
近年見てきた新人の漫画で最高の一本。傑作と言っても過言ではない。プロの漫画家でもここまで高度な演出技法を使える人はそう多くないだろう。セリフに頼らず行間で読ませる技、時間経過と心象風景の巧みさ、深い愛の終わりを描く作家性の高さ。天才の登場に立ち会えて心から嬉しい。
■浅野いにお先生
とても惜しい作品でした。元恋人の幻想が落書きのように表現されており、それがこの作品の特徴なのでしょうが、奇をてらい過ぎている感があり、寧ろ元カレの存在は回想の中だけにとどめておくようにして普通に描いたほうが良かったんじゃないかと思ってしまいます。画力、構図、物語の構成力は二十歳とは思えない余裕を感じます。絵柄、セリフ共に余白多めで淡白ですが、読者に想像させながら読ませる安定感があるので、変な小細工は使わずに自信を持って次の作品を描いて下さい。
■石塚真一先生
一編の詩のような作品です。セリフは最小限に、表現の試みは最大限にされていました。「自分の持ち味」を持った作者だと思います。さらなる「情の作品」に期待します。
■業田良家先生
魅力的な絵で、新しい表現にチャレンジしようとしている点を高く評価する。たった17 ページなのに主人公の女性の悲しさもよく伝わってきた。ただ、主人公をもっと美人に若々しく描く手もあったのではないか。読者はとにかく美男美女が好きなので。

入選

『真夏の電柱少年』矢田恵梨子(三重県・26歳)

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■花沢健吾先生
まず電柱萌えという新しさがフックになっているが、電柱にたいする含蓄が少なく奥行がないのでフックがうまく利用できていない。電柱の取材をもっと徹底的にやって、読者の知らない情報がもっとあれば違うレベルの作品になったと思う。残念です。主人公の成長が恋愛感情のみにならず、別の視点があればなお良かったです。
■太田垣康男先生
正直言って私はこの漫画のヒロインは苦手で絶対付き合いたくないタイプ(笑)。そう思う位に実在感があり強いキャラクターを作った作者の力量は凄い。電柱オタクくんの女々しい所もリアルでこれまた付き合いたくないタイプ(笑)。だがとても愛らしい作品(笑)。
■浅野いにお先生
若干、女性誌のノリが濃すぎるかなと思いましたが、全体的に爽やかで好印象でした。所々人物のデッサンの不安定さが気になったので、変な描き癖がつく前に矯正する事を強く薦めます。物語上、主人公の青年はガサツなヒロインにあっけなく懐柔されてゆきますが、本来オタクはちょっとやそっとじゃ瓦解しない闇と変態性を持ち合わせていますので、今後もっと人物像を掘り下げる観察眼を持てるようになれば話作りの幅が広がると思います。
■石塚真一先生
キャラクターの魅せ方○。感情移入もすんなりできました。欲を言えば、登場時のキャラの印象がラストで最大化されるとなお良かったと思います。ドーンとできる作者だと思います。
■業田良家先生
電柱マニアなんているのかと驚き、まずそこで興味を持った。その電柱が主人公の現在の内面をぴったり表していて、必然性もある。登場人物の表情の描き分けも巧いし、人の心がよく分かっている作者だと感じた。作品のメッセージもちゃんと深く伝わってきた。

佳作

『三分天下』なつたろ(北海道・23歳)

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■花沢健吾先生
この作品も読者をどこに誘導させたいのかいまいち分からなかった。最初、信長の格好して登場したノブの横に二人の家来がいたがどこにいったのか? これも前世と現世が交差して見えてるのか、さっぱり分からなかった。禿鼠?も突然出てきて混乱した。読者に読んでもらうことを常に意識して描かないと自己満足で終わるだけです。
■太田垣康男先生
色々と惜しい、と感じる作品。キャラもシナリオも演出もどれも練り込みがあと一歩足りない。特にシナリオは基本から勉強する事を強く勧める。物語のイロハを覚えれば作者の個性は強いのできっと化けると思う。
■浅野いにお先生
BL 的な作風と歴史ネタという「趣味×趣味」漫画なので、いずれの趣味にも当てはまらない自分には読みづらい作品でした。このような趣味性の高い作品は、作者の内面が全く見えてこない傾向があり、非常に評価し辛いです。好きな人にはたまらないのでしょうが、今回はあくまで青年誌・一般紙カテゴリの審査なので厳しい評価です。絵は魅力的ですし、なにより楽しんで好きなものを描いているように思えますので是非別の雑誌で勝負するか、一般層にも受け入れられるよう調整して下さい。
■石塚真一先生
キャラクターに強さがあります。個々のキャラクターの「気持ちの描き分け」がもう少しハッキリすると読み進めやすくなると思います。
■業田良家先生
魅力的な描線でデッサン力もある。かっこいい男の顔が豊かな表情と大きな動きを伴って描けている点を高く評価する。幼い頃の顔もキャラを壊すことなく可愛く描き分けられている(実はこれが意外と難しい)。ただ、ストーリーが完結していなくて中途半端だ。惜しい。

佳作

『多分、彼女は世界の果てを知っている』
フジモト(埼玉県・33歳)

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■花沢健吾先生
こちらも独自の世界観を持っているように見えるが、ちょっと読者を置いてきぼりにしてる感が否めない。独自性は諸刃の剣であり、マイナスに働く可能性もあることを理解し、どうすればプラスに向くかを常に考え自分のモノにしないといけない。プラスにする方法が見つかれば、それは自分のブランドを確立したことと同義で、漫画家として非常に強力な武器になります。
■太田垣康男先生
良質な児童文学を読んだ気分。ただ、青年誌の読者にこの感性が受け入れられるかについては懐疑的。投稿する雑誌を変えて一番読んでほしい読者が集まっている場所を探す事も、漫画家にとっては大切な作業ですよ。
■浅野いにお先生
今回の応募の中で最もテーマ性がはっきりしていて面白い話でした。雰囲気も魅力があります。ただ内容に反して作画技術が低く、且つ癖も強いのが勿体ないと感じます。キャラの造形もデフォルメが強いので、読んでいる途中で絵の独特な歪みが煩わしく感じました。デジタル作画の方は恐らく拡大縮小して描画するからだと思うんですが全体的に絵が大きくざっくりとしてゆく傾向があり、折角の見開きや大ゴマが手抜きに見えてしまいます。誌面で読んだときの絵の密度とバランスをイメージするようにして下さい。
■石塚真一先生
テーマの重さに反するポップな絵が作品独自の世界観を創り出しています。キャラとキャラの接する部分をもう少し読みたいと思いました。
■業田良家先生
優しそうな女の子「アムネジマ」が実は独裁者の暗殺と言う重大な使命を持っていた、というアイディアが面白かった。こんな突飛な設定にリアリティを宿らせた点を評価したい。主人公の人生ともちゃんと重ね合せていてまとまっている。絵には個性があるのでいい方に伸ばしてほしい。

佳作

『8月のささくれ』もり可南子(熊本県・24歳)

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■花沢健吾先生
読後感がさわやかで嫌味がない。コマ割りや絵がわかりにくい箇所が所々あり読み返すことになり結果、損をしている。とくに表紙が何を伝えようとしているか、いまいちわからない。この表紙では読者が興味を惹かないと思う。この3人家族の繊細な関係性を伝えるために大切な1ページを無駄にしている。感性は鋭いようだが、それを表現する手段が未熟なため、力が思う様に発揮できてないように感じられる。なによりも画力のアップを目指してもらいたい。
■太田垣康男先生
清々しい読後感。シナリオだけ読むと単調で有りがちな物語だが、高い演出の技量が作品のレベルを数段上げている。回想シーンの入れ所も絶妙で無駄なセリフを排し、演出だけで物語を伝えるテクニックは仲々なもの。
■浅野いにお先生
ストーリーは朗らかで牧歌的な雰囲気であり、登場人物も皆善良なので、文句の言いようが無いのですが、全体的に淡々と薄味過ぎる印象でした。絵柄も同様に薄味で、物語には合っていると思うのですが、全ての場面が同じテンションで描かれているのでもっと減り張りが欲しかったです。場面転換が唐突で何度かページを戻りながら読んだので、特に過去の回想シーンは前後のシーンと区別しやすいようページのめくりに配置するか絵で差別化を図るなりして工夫して下さい。そういった読みやすさは内容以前の最も重要な事です。
■石塚真一先生
読後の良さがあります。スガスガしい読後感。セリフにもうひと工夫あったらなおよかったと思います。
■業田良家先生
学生時代のエラー(失敗)が尾を引いて、後年それを克服するストーリーはよくあるし、この作品も類型に収まってしまっている。類型を打ち破るアイディアがほしい。絵には好感が持てる。