第79回

新人コミック大賞 発表

青年部門


入選

『ネコと人間事情』玉川みわ 35歳・神奈川県

■花沢健吾先生
絵もキャラも魅力的だったが、ネコである理由が少し弱いと感じた。ネコの特性が、出会った人達に気持ちの変化を引き出すことになれば、ネコである必要性がハッキリして更に良かった。そこら辺を修正しつつ、もう少し短編を読んでみたい。
■太田垣康男先生
現実逃避してる人間がステレオタイプで読者の興味を引く要素が少な過ぎる。ネコも喋る以外のアイデアが無く人間との対比も弱いので笑いに繋がらない。
■浅野いにお先生
猫のむかつく性格と生活感あるれる人物たちの絡みが絶妙で面白かったです。読者に好かれる/嫌われるギリギリのラインを計算できるバランス感覚があるのはかなり強みだと思うので、スタンダードな「笑ゥせぇるすまん」方式のこの作品を今後どれだけ量産できるか。この猫を語り部に他の人物のケースも読んでみたいです。
■石塚真一先生
キャラクターがいい。登場するキャラクター全てに感情移入させられることが、著者の大きな才能です。読んでて楽しいし、どこか前向きな気持ちになります。もっともっと読みたい。
■業田良家先生
ネコと人間の会話にリアリティがあり、軽妙で笑える。絵も簡潔明瞭で表現が的確だ。タワーマンションに住む独身のさみしい女と、就活を諦めてネトゲーにはまったダメ男の心理描写も巧みで、作者の人間観察眼は鋭い。話を上手にまとめる力量も感じた。

入選

『パリとわたしと』宮崎健一 35歳・埼玉県

■花沢健吾先生
絵は抜群に上手いし、もはやプロ以上。コマ割り、物語の流れ全て完璧。ネコのキャラはもう少し抑えた方が良い気はした。ただ、なぜか読んでも残らない。優等生すぎるからか、作家が見えてこない作品だった。絵は文句のつけようがないので、自分の内面に切り込んで欲しい。
■太田垣康男先生
長年の修業の成果だろう画力は素晴らしい。人物もネコも背景も好感の持てる絵で見応えがある。しかし、物語は何一つ入っていない。事件も対立も成長もなしではただの環境ビデオになってしまう。このアンバランスは非常に残念。
■浅野いにお先生
作画レベルが高く、コマ割り構図も巧みなので、今すぐプロとして通用すると思います。むしろプロの中でも作画技術に関してはハイレベルな部類に入るのではないでしょうか。風景や小物のデティールも詳細なので絵だけで物語れる力があります。ただ今回は、猫目線という設定が作品の核とはいえ、ストーリー自体は全くの無味無臭で、更に人物の言動が型にはまっています。もし長所を強調するという発想ならば、(紙面に掲載されるかは別として)風景と動物だけのサイレント漫画でもよかったのではないでしょうか。
■石塚真一先生
描き込みの凄いこと、脱帽です。細かく丁寧な絵、本当に素晴らしい。パリにいるような感覚があります。キャラクターの?個性?が、もっともっと過剰でも良いかもしれません。個性が強いキャラクターが描ける気がします。
■業田良家先生
空以外にはトーンを使わず、ベタと描線だけで陰影を表現する画力は見事だ。精緻な風景描写は観ているだけで心地よく幸せな気分になる。キャラクターも全員美形でかわいらしく、多くの読者に愛される絵柄だ。主人公の猫も擬人化の塩梅がちょうどよく、ユーモアもたっぷりだ。即デビューして新作を発表してほしい。すごい才能だと思う。

入選

『明るい家族計画』原作:野田洋一郎 32歳/作画:杉山鉄兵 30歳・東京都

■花沢健吾先生
絵はうまい。伝えたいこともわからなくはないが、空回りで読者を置いてけぼりにしている。家を壊すのも、作家が描きたいだけで、キャラの気持ちがついていっていない。(倒壊後、3兄弟はどこに行ったのか?)描きたいことと読者が読みたいことを近づける努力をした方が良い。
■太田垣康男先生
あらすじは面白くキャラ設定も練られていて良いのだが、ぶっ飛んだ内容に対して演出にキレがなくジェットコースターのような漫画になれなかったのは残念。
■浅野いにお先生
霊と悪魔はこれまでの新人賞応募作で何度も見たモチーフで、読者全員に共通認識がある扱いやすい「嘘」として描きたくなってしまう気持ちはわからなくはないのですが、そこに絡む人物たちの人物像までが非常に漫画的な「嘘っぽい」キャラになってしまうともはや取っ掛かりがどこにもなく、茶番のようになってしまいます。漫画なので「空想」を入れ込むのは構いませんが、「嘘」はあくまで一つまで。それ以外はリアイティで塗り固めないと作品が軽薄になってしまいます。
■石塚真一先生
ストーリー優先であるものの、キャラクターの設定もきちんとされていて、読み進めやすかった。プロが描くレベルの絵です。表情にもっと意外性があると、さらに面白くなるかと思います。
■業田良家先生
家を結界で封じたり悪魔を召喚したりと、かなり非現実的なストーリーを、よくできたアイディアと意表を突く展開で読者を漫画に引き込む。その力量に感心した。たった32 ページで家族の再生と主人公の成長がちゃんと描けている。すごく面白かった。ただ一点、主人公の顔をもっと魅力的にしてほしい。自分にしか描けない主人公の顔を創作してください。

佳作

『ふたり』塚田雄太 24歳・静岡県

■花沢健吾先生
難しい題材を丁寧に誠実に描いていてとても好感が持てた。絵にも独特なクセがあり、僕は好きだ。残酷な物語なのに優しい読後感が残ったのは作家性だと思うので、大事に育てて欲しいと思う。
■太田垣康男先生
雰囲気は良い。登場人物それぞれに何かある、と感じさせる雰囲気は出ているが残念ながらそれだけ。読者の興味は引いているが人物の掘り下げが出来ておらず、登場した時の印象から全く変化せず物語が始まる前で終わっている。もっと深く掘れる題材だけに勿体無い。
■浅野いにお先生
非常に才能を感じました。間の取り方や空気感の演出は巧みだし、なにより切実な感情が伝わってきました。ストーリーは特に目新しさはありませんが、こういった作風の方に小賢しいストーリーは不要だと思うので今回のような実直な物語を今後も期待します。ただ、あまりに淡々とした印象を持たれてしまうのはもったいないので、ラストだけではなく物語の途中で印象に残るシーン(ただの景色でも構わないので)がもう少しあれば言うことなしでした。
■石塚真一先生
精一杯描いています。服の柄や暖簾まで、しっかり描きましたね。場面場面でもう少し俯瞰の絵を使うと良いと思います。加えて、キャラクターの魅力についても、もう少し踏み込める余地がある気がしました。
■業田良家先生
話の展開が巧いので前半はショッキングで面白く感じたが、終盤のアイディアが平凡で残念だ。短編は最後に必ずどんでん返しを入れるのが義務だと思ってもうひとひねりしてほしい。しつこく粘って考え続ければ別のアイディアは必ず出ます。自分さえ考えてもみなかったオチを発見するのが創作だと思う。

佳作

『くらのなか』ムジナ朋浪 30歳・三重県

■花沢健吾先生
絵の雰囲気もコマ割りもとても良かった。すでに完成されている。ただ、ラストのインパクトが弱く、何を伝えたかったのかボンヤリしてしまった。雰囲気だけの漫画にならないようにして欲しい。
■太田垣康男先生
主人公の青年がただの傍観者で終わっている。祖父の葛藤や哀切を知り主人公としてその想いにどう応えるのか。そこまで描かなければ片手落ちだろう。行動しない主人公に読者の共感はない。
■浅野いにお先生
何系と呼べばいいのかわかりませんが、ここ十年くらいでよく見るようになった絵柄です。僕は読みやすいので好きな絵柄なのですが、読者にとっては無個性に見られてしまうかもしれません。その割に主人公が妙にオラついたルックスだったのはだからこそのあえてだったんでしょうか? 平均点的な作品ですので作品の質としてはこれでいいのですが、読者がこの作品のどこに「特別」感じてくれるのかを考えると、強みを中々見出せません。バランスは難しいかもしれませんが、これ系の中でも抜きん出る要素をひとつ身につけてください。
■石塚真一先生
見事な“絵のスタイル”を確立しています。そしてストレスなく読みやすい。著者の意図したままに「ナニ? 何?」と誘導されました。予想外の展開に持っていく鍵はキャラクターの感情の多様さ、豊かさかもしれませんね。
■業田良家先生
ストーリーはどうと言うことはないし、目新しいアイディアがあるわけではない。しかしなんといっても柔らかい描線が美しくデッサン力がある。少ないネームで上手に話を展開していく力量も感じた。